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[コメント] 硫黄島からの手紙(2006/米)

全編日本語の作品という快挙に日本の映画ファンとして感謝の念を送りたい。だけど、いったい何を語りたかったのか、さっぱり分からない普通の戦争映画を見せられてもねぇ・・・
sawa:38

前作はテーマにピタッとピントが合ってはいたが構図はぼやけブレていた。そして日本人観客が過剰な期待を賭けた本作。これは逆にテーマにピントが合ってないどころか、テーマって何だったんだろう??

無理やり見つけてみた。

アメリカナイズされた渡辺謙伊原剛志の二人の指揮官。従来の得体の知れぬ帝國軍人像の中村獅童。この対極にある人物像を比較描写する。前者はまさしく「アメリカ人」そのものでありアメリカの観客の理解の範疇にある。後者はカミカゼ・ハラキリに代表される「得体の知れぬ東洋人」であり、現在のイスラム教徒へ繋がる恐怖の対象である。

そして両者に絡まる二宮和也加瀬亮は両者の道化者だ。自己主張を持ちながらも従属する「現代の日本人」として描かれている。

このありふれた3パターンの人物をハリウッドの大監督が斬っていく・・・っていったいどこが・・なんだろう。この監督は前作で露呈したように、人物が複数になると途端にその描写が弱くなってしまう。時間の制約があるのだから当然の次第なのだが、それはインパクトある演出がそれぞれに無いが故の結末なのです。

つまりは下手な演出。というよりは設計段階の脚本が徹底的にまずいのではなかろうか?だいたい「手紙」ってのは映画的にいったいどんな効果を挙げたのだろう?タイトルにつけるような「手紙」の効果はまったく皆無。

もっと極端に言えば、主役を栗林中将に設定したのは間違いだったのではないか?二宮和也演じる一兵士に設定した視点で充分ではなかったか?栗林中将という指揮官を主役に設定するからには、彼の置かれた苦悩や苦労、そして何よりもアメリカ人を最も苦しめた指揮官としての戦術を描かなければ駄目なんじゃないか。そういった描写はアレで充分と言えるのだろうか?

凄惨な地獄の戦場、激戦の島という描写は描かれずじまいに終わった。後にベトナムで同じように苦しめられるゲリラ戦術という米軍にとって最大の敵も描かなかった。

いったいアメリカ人はこの島を攻略するにあたり、何に苦慮したのだろう。英語を話し、アメリカに居住した事のある「準アメリカ人」が指揮したという事なのだろうか、それとも得体の知れぬカミカゼ野郎に振り回された為なのだろうか?

さっぱり分かりませんでした。少なくともこれまでハリウッド映画で描かれてきたバンザイ突撃でバタバタと倒れていく「同じ顔」の東洋人にも、それぞれ人間性がある人間なのですよと周知してくれた事ぐらいなのではないか。

悲惨さを描くでも、愛を描くでも、人物を描くでもない。ごくごくありふれた戦争映画でした。またしても期待が大きかっただけに残念でした。やはり戦争映画ならば東映モノが一番ブレず、突き抜けているのを再確認した次第でした。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (13 人)たかひこ[*] Santa Monica ヒエロ[*] 狸の尻尾[*] ぽんしゅう[*] Orpheus けにろん[*] 死ぬまでシネマ[*] ぱーこ[*] Keita[*] 緑雨[*] リア 水那岐[*]

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