[コメント] 約束(1972/日)
他のコメンテーターの方々も仰っているように、まるでこれはフランス映画である。舞台は紛れも無く日本だし、しかも寂れた田舎町で、主演はのっぺり顔の萩原健一である。にも関わらず、この空気はまさに北フランスかどこかの風情を想起させる。
鑑賞後のイメージはモノクロの印象が強く残っている。実際は鮮やかなカラー作品なのだが、私にはモノクロ作品としての静謐さ、寒さ、重厚さが心に響いているせいかも知れない。
・・・・・・・・・・・・
オープニングの列車内のシーンから、この映画はある種異様な雰囲気を醸し出す。密室状態でありながら、極端に台詞を排除した不気味な静かさに、車内の何でもないシーンが異様な緊張感に包まれている。そしてその台詞の少なさ(緊張感)はラスト近くの「門扉の別れ」で互いが冗舌に心情を吐露し合うまで続く。
そう、ラストで互いの感情が爆発するまで、この映画は静謐を保つ。だが、そこに弛緩は無い。
虚無感漂うロングの画は相変わらず芸術的な切れ味を見せ、作品全体をフランス映画風の叙情的なモノにしたかと思うと、極端なアップの画で岸恵子の疲れた顔を残酷に舐める。この反復は作品を単に叙情的にはせず、サスペンスに近い緊張感を与えているのである。
・・・・・・・・・・・・
そして脚本の完成度の高さ。87分という短尺でありながら、そのメリハリは素晴らしい。TVドラマなら真っ先にカットされるであろう叙情的な部分を多く撮り、ドラマティックな部分は凝縮されている。まさに「映画的」である。
・・・・・・・・・・・・
シネスケではもうひとつ評価が低い本作ではあるが、どうしてもこの作品が見たかった。子供の頃の初見時は何が何なんだか理解出来なかった本作であるが、何故か、心に引っかかっていた。ようやく、やっと、このビデオを発見出来た。車で一時間かかるビデオ屋を探しだした。・・・その甲斐はあった。充分あった。子供の頃とはいえ、心に引っかかった「何か」は正しかったと証明された気分である。
「佳作」としてぐらいしか映画史的には評価されない作品かもしれないが、私的には満点を付けたいと思う。
PS,若い頃のショーケンはいい。まだ「まばたき」をするし、普通の声を出している。ラストの逮捕時に幼児のようにダダをこねる芝居は「絶品」である。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (1 人) | [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。