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[コメント] ひめゆりの塔(1982/日)

この間延びした、緊迫感のカケラもない演出は意図的なのか?だとしたら さすがの今井正。
sawa:38

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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サイレントかと疑うほど「音」の少ない映画だ。もちろん沖縄の空を切り裂く艦砲射撃の轟音は申し分ない。だが、大半は沖縄の自然の奔放な「音」が占める。

そして台詞も少ない。いや、正確にはシーンの変わり目に訪れる無音状態が目につくのだ。まるで編集の際に切り忘れたかのようでもある。

だが、ふと思う。まったくもって映画的ではないが、現実はどうだったのだろうかと。米軍の艦砲射撃は四六時中続いていたとは到底考えられない。鳥が鳴き、風が木々を揺らしている時間の方が圧倒的に長かったのだ。通常の戦争映画ならば特殊効果マンが腕の見せ所とばかりに活躍するシーンの積み重ねが花形であり、評価を決定をもする。そういった意味でこの作品は映画的ではない。私は当然ながら当時の現場を知らないし、知っているつもりになっているのは、これまでの「戦争映画」や「ドキュメンタリー映像」からの知識だけなのだ。こんな「静かな戦場」は私には想定外だったが、彼女たちの逃避行を描けば、静かな時間の方が大勢を占めたのだろう。だから、ふと思う。これってリアルなんじゃないのかと。

そして第二点、この作品に米兵の姿はほとんど出てこない。彼女たちはただひたすら遠く海上からの艦砲射撃と空からの機銃掃射で殺されていく。それは人間対人間の殺し合いというより、話し合いという解決策がまったくもって通用しない天災との戦いである事を描いているかのようでもある。米軍史上最大の死傷者を出した「沖縄戦」を描いているにも関わらず、日本軍は抗う事が不可能な天災や、慈悲の心を持たない機械による殺戮の犠牲になっていったかのような描き方である。

事実、この作品で日本軍の発砲(抵抗)シーンは無い。ラスト近くで古手川裕子が味方である日本軍に射殺されるシーンのピストル一発だけなのに驚く。あれだけの太平洋戦争最大の激戦地を描きながら、狂おしい鉄と鉛の物量に対してピストルの銃弾がたったの一発。しかも味方に向けての一発である。

これが意図的な演出なのだとしたら、非抵抗の善意の被害者を描くのにこれほど効果的な「一発」はなかっただろう。

ふと思う。これらがすべて意図的な演出なのだとしたら、社会派と知られるさすがの今井正だと。

だが、もし、そうじゃないのなら・・・非常に評価の難しい作品であると思う。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

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