ここまで描いて大丈夫なのか？見ている側が別の次元で心配してしまう程の力作だ。 ただ残念なのは、この事件を誰の視点から描くのかという命題。「戦うことの無い軍隊」という自衛隊に欲求不満の青年将校の視点を借りたことで、事件の焦点がぼやけていくのは否めない。

何故「拉致」という強行手段をとってまでも金大中を排除しようとするのか？何故、命を懸けてまで大統領への階段を昇ろうとするのか？ 「戦争ごっこ」をしたかっただけの日本人自衛隊員の視点はそれらの問題点を素通りしていく。

だが、当時の日本人の多くが感じた事件への感想は、皮肉にもそれに近いのかも知れないとも思う。当時は子供で詳しい図式を知らなかった私の記憶には、今と変わることのないマスコミ・ワイドショーの興味本位の過剰な報道しか記憶にない。

そういった意味では「被害者」の金大中が大統領に昇りつめた今、「被害者」が過去の「加害者」を一方的に断罪するといった構図の政治的な国策映画を見せられるよりは、傍観者的な位置付けの日本人の視点からの興味本位の視点の方が幾分ましなのかとも思わされた。

余談だが、映画の中に登場する白のスカイラインが妙に目立っていた。主役が小道具の車ごときに喰われてしまってはいけません。