コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 帝銀事件 死刑囚(1964/日)

平沢貞通を中心に描いているのではなく、記者が事件の真相を追及し奮戦する姿が色濃い。
TOMIMORI

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







それだけに平沢氏をやや中途半端に描いてしまっている感じが拭えず、疑惑を晴らすというより捜査手法や報道姿勢の問題点を提起しただけという印象。

特にコルサコフ病と出所不明の大金についてもう少し突っ込んでほしかった。

「平沢死刑囚の脳は語る(平沢武彦)」によれば 平沢氏は34歳の時に飼い犬の狂犬病に伴い予防注射を18回受けたのだが、 その直後体が麻痺し寝たきりとなったことがあり、意識回復後も様々な幻覚症状を示す。 ワクチンで副作用を起こした人の大部分には著しい人格変化が認められ、妄想的考えに基く衝動的な脱線行為に及ぶのだが、 平沢氏の場合の虚言や奇行は子供のような幼稚なものが多く、帝銀事件のような緻密な犯行を計画するとは到底考えられないという。 ちなみに予防注射のワクチンは副作用が頻発するために1952年に使用中止となった。

また、出所不明の大金についてだが、事件時所持していた13万円のうち8万円(5万円は夫人や知人の証言で証明可能)は 裁判官から「春画を描いて売った金ではないか」と質問されてもかたくなに否認したのだが、 死刑確定(1955年)から8年後、面会人に「春画を売った金だ」と告白した。告白したのが1963年頃なので熊井監督がそのことを知っていたかどうかは不明だがその事実も盛り込めていればかなり有力な材料となったであろう。ちなみに最近見つかった12枚の巻物、4枚の春画を平沢の筆によるものか鑑定中(公式WEBの情報からだいぶ経つのだが鑑定結果はまだであろうか?)

裁判で春画を否認したのを松本清張は「画家としてのプライド」だと分析する一方、平沢武彦氏(平沢氏の獄死後に養子となった)はコルサコフ病の後遺症による病的な虚栄心と楽観的な精神構造が起因していると分析する。

「平沢貞通と一店主の半生」によれば獄中の平沢氏と文通していた著者に「私はその刑に値する罪を犯していないのですから、たとえ死刑に処せられても私は罪を受けたことにならないのです。」と話したという。 確かにこれを読むと自分がどんな立場にあるか本当にわかっているのだろうか?なんて楽観的な人なんだろうかと感じる。 「楽観的」、これは平沢氏を理解するうえで重要なキーワードといえよう。 映画でそのような彼の特異な性格まで言及できたかどうかは少し疑問。

ところでなぜ松井博士の名刺を平沢氏が持っていたか?だが、青函連絡船で同室になった不機嫌そうな(一等室に入れなかったため)松井氏に平沢氏がモカコーヒーをふるまったのが縁だったようだ。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (2 人)クワドラAS[*] 寒山拾得[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。