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[コメント] ひまわり(2000/日)

誰の胸にも記憶がある、「初恋」の懐かしくも切ない、そして暖かい記憶を、瑞々しく美しい映像で浮かび上がらせた、(個人的に)思いもかけない傑作(になりそこねた作品?)。
ことは

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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正直そんなに期待してなかったんです。 レンタルビデオ店で前から目に付いていたんですが、見る前にシネスケで皆さんの評価を見てみたら平均点もそんなに高くないし、まあ、普通なのかな、と。 「そんなに期待しない」で見るのが一番いいのかもしれません。そういう状態で見て「期待以上に良い」と、自分にとっては非常に思い入れのある映画になる場合が多い。本作品がまさにそれでした。

一人の女性「真鍋朋美」の過去が、彼女の葬式に集った人々によって明らかにされていく過程は、オーソドックスとはいえ、興味を惹いて、物語にぐいぐいと引きこまれていきました。 と、いうか、それもあるのですが、葬式に集った人々によって語られる段になって、画面に登場した朋美演じる麻生久美子の死の影を帯びたような影の薄さ、孤独感、それでいて妙に存在感を感じさせる彼女の姿に魅せられたこと、そして彼女の姿を見て、彼女「真鍋朋美」の過去を知りたいと、僕自身思ったことが、引きつけられたもうひとつの大きな理由でしょう。 麻生久美子という女優が、初見ながら非常に好感度が良かったのが、この作品を好きになった大きな要因であることは、間違いないです。

葬式には似合わないユーモラスな会話や行動を処々に入れつつ、一方では、彼女はなぜ死んでしまったのか、彼女はどんな人物だったのか、が同級生たちを中心に語られていきます。 謎解きのミステリー仕立てで話は進んでいくのかと思いきや、そうはならずに、違うほうへとずれていく。これは最後までそうであって、僕自身勘が鈍いのか、ちょっと予想と違うほう違うほうへともっていかれて、それが逆に心地よく流されるままに流されていって、すがすがしい余韻を与えてくれたように思います。

物語は袴田吉彦演じる輝明の小学校時代の記憶が、徐々に解きほぐされて、真鍋朋美との初恋の記憶が、瑞々しい映像とともに浮かび上がってきます。 このあたりは、自分にもこういう季節があったのだなあ、という甘酸っぱくて懐かしい気持ちに浸ってしまいました。こういう話は弱いので、それだけで評価が自然上昇してしまうのが、まあ、甘っちょろいといえば、甘っちょろいのですが…。 この初恋の記憶の映像は、光を効果的に取り入れて、まばゆいばかりで美しい映像となっています。

真鍋朋美は本当に死んでしまったのか? あるいは彼女はなぜ死んだのか?といったことは、物語の途中からもうすでに放棄されてしまい、物語は主人公の過去の記憶との対峙、そして決別、後半は主人公たちの青春群像が、それなりに淡くではあるがうまくまとめられており、青春ものになっちゃうのか?と思わせるほどの展開を見せてくれます。砂浜に埋まったボートをみんな懸命に掘り出す場面など、ある意味、もはや真鍋朋美の存在などはどうでも良くなっています。 結局「真鍋朋美の死]という出来事を通じて、集まった人々が、特に主人公である輝明が、何かを得て成長していく、あるいは乗り越えていく、過去と向き合う。そして最後、輝明の恋人から彼に電話がかけられて、携帯が鳴り響くことで、再び彼らは現実に戻っていく、ということを表していたのだと思うのですが、あの結末は少々唐突な感があり、余韻に浸ることが出来ず、僕にとってはやや不満な結末でした。

麻生久美子の存在感は抜群でしたが、それに対しての袴田吉彦がもう少し深みのある人物像になっていたら、とも思いましたが、予想以上に楽しめた作品であり、この監督のほかの作品も見てみたいと思わせる出来でした。

それと、真鍋朋美は輝明から「君はひまわりのような存在だ」と書いた紙をもらって、自分にはふさわしくないと感じた、というエピソードを恋人に話していましたが、確かに彼女の存在は真夏の「ひまわり」という存在には似つかわしくありません。しかし彼、輝明にとっては朋美はやはりまぶしすぎる存在であり、「ひまわり」のような存在であったのだろうと思います。けれど、もうひとつの解釈として、「ひまわり」とは漢字で書くと「日向葵」となります。つまり「日」に「向かう」「葵」と読めます。むしろ朋美はこの「葵」のほうが似つかわしい気がします。「葵」のようにひっそりと咲いていて、いつも「日」である「太陽」に向かって、太陽を求めて咲こうとしている存在、それが朋美ではなかったか、と考えたほうがしっくりとはきます。かなり勝手な解釈ですが。

最後に、『東京兄妹』で個人的に注目していた栗田麗も出ていたんですね。どこかで見たことあるなあ、と思ってたんですが、後で出演者の名前見て思い出しました。『東京兄妹』では、ほんとに台詞少なかったんで、声も良く覚えてないくらいなのですが、この作品では結構明るい子で普通にしゃべっているんで、あとから思うとこのギャップはなかなかおもしろいですね。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)ピロちゃんきゅ〜[*] 水那岐[*] Stay-Gold[*] sawa:38[*]

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