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[コメント] 影武者(1980/日)

最後の歴史(戦国もの)大作
アルシュ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







■私は日本の城巡りが好きだ。単に城の造形美や展示物を見物するだけでなく、「ああ、このあたりで秀吉とおねが暮らしていたんだ」と言う様に歴史のロマンに浸るのが魅力だと思っている。

何も知らずに城を訪ねても、「ああ、そうなんだ」ってな程度で、ロマンや感慨が湧く様な事はない。歴史を扱った映画や原作のある作品は、事前事後でも原作を読むと映画にどっぷり入り込む事が出来るものがある。この映画も史実を知らずに鑑賞するより、まずは関連小説等を読んで思いを巡らせながら銀幕の展開に浸るのが正しい様な気がする。

■とは言え、武田一族の歴史を知ったら知っていたで、この映画の考証には目も当てられなくなっていく。

例えば、信長の居城が姫路城であったり、野田城などの小さな城が立派な石垣というのもおかしい。この当時では野面積みという簡単な石積みであり、天守閣のある城ももう少し後世になる。

黒澤作品十八番の、草木のない戦場(高天神城の戦い)には幻滅。

また、武田家内に関して言えば、信玄の死は即バレているし、諏訪(武田)勝頼が短慮すぎるし、長篠に向かう際武田軍が海辺を通過しているのも誤り。

設楽ケ原の戦いが、無謀にも武田騎馬隊が織田の鉄砲隊に突っ込んで全滅したような描き方だったのも間違っているし、部隊は武将別であり、風・林・火・山などの様に分けてはいない。

■しかし、日本の美しい城郭や本格的戦国絵巻をストーリーのある1本のフィルムに収めてくれただけで、武田家の末路の悲しさに対して、大いにロマンを掻き立てられた。この後、天目山で自刃する勝頼を想像し、ラストシーンで涙を流していた。

■皆さんが推される勝新太郎だったらというのは解らなくもない。仲代は演技過剰。だが、晩年の信玄は結核でふっくらとはしておらず、頬がこけ目の仲代の方が、考証的には正解と言える。

■本作の後に作られた戦国物の大作と言えば、同監督の『』や、『梟の城』だろうが、前者は完全な創作だし、後者の出来は目も当てられない。ゆえに私自身は黒澤監督亡き後は、もはやこれ程の歴史大作は誰も作り得ないと思っている。

(評価:★5)

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