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[コメント] ブラウン・バニー(2003/米=日)

もうこれには無条件降伏。手に負えない美しさ。失われたデイジーを求めて、ヴァイオレット、リリィ、ローズを無下に手折るバド(つぼみ)。寸分の隙もない画面構成と編集に固唾を呑んで見入ってしまい、時間がすごく短く感じられらた。
ぐるぐる

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







極度に内向的なアプローチを誠実に貫いたことの結果として、過去30年間の世界の歴史に喧嘩を売っているような反逆性と瑞々しい美しさを獲得したフイルムだと思う。

映画を見るにしても、ただ受動的に「エンターテイン」されることに慣れ切ってしまい、すっかりハリウッド中毒患者になりかけていたところに冷水を浴びせられたようで、見終わった後のアタマは爽快そのもの。まずは現代でこんなフイルムが可能だったことに驚きを感じると共に、それをやり遂げたギャロに対する敬意を感じずにはいられない。

一方、胸の中にはもやもやとした陽炎のような焦点の定まらない浮遊感を伴って、あてどなさやるせなさ居たたまれなさ不安不信後悔自責の念といったうつ病系のネガティヴな感情が残る。しかし、それを包み込む空気は決して冷たくはなく、目に映る風景は限りなくやさしく美しい。オリジナルシナリオのバイクで壁に突っ込むというエンディングを変更し、その前の風景の中で止めたという映画のラストシーンの完璧なタイミングにギャロの天才を感じる。

もし、この徹底して無駄無く切り詰められた見事な作品が、同じく孤独な男を描きながらもオフ・ビート感覚の癒し系自分探し恋愛ドラマ?として妙に時代のツボにはまり、ついつい「エンターテイメント」してしまった前作『バッファロー'66』への評価を冷静に分析した結果だとしたら、ヴィンセント・ギャロという男は空恐ろしい。

そのためにギャロ本来の(と思われる)乾いたユーモアの感覚も抑制されているのが残念と言えば残念だけど、全篇を貫く演出の緻密さ厳格さの生み出す効果からすると、それは小さな代償と考えるのが自然なのかもしれない。いやあ参りました、ギャロ先生。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (3 人) ホッチkiss[*] ボイス母[*]

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