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[コメント] Shall we ダンス?(1995/日)

本作は、それまで雌伏期間だった邦画が再び伸び始めるきっかけを作ってくれた作品と思います。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 この公開年1996年と翌年1997年は邦画にとっては記憶されるべき年だろう。

 長い間邦画は不当な位置におかれていた。日本人の映画離れもあっただろうし、洋画に良質なものが多かったのもあっただろう。確かに邦画もいくつか良作を送り出していたが、旧態依然としたいわゆる巨匠の映画ばかりが投入され続けたこともあった。邦画における観客動員数トップの座が1983年の『南極物語』以来変わってないのが如実にその事を示していた(実はこれは劇場公開よりも、地方の学校や自治体が自主上映した際の動員数が多いからだが、その記録を塗り替えたのは1997年の『もののけ姫』で、実写に至っては2003年の『踊る大捜査線2』まで待つことになる)。

 邦画不振に関していくつか理由を挙げてみたが、実際邦画に足りなかったものは、実際は一つだ。

 社会に対してインパクトが無かった。これだけ。映画が映画館で止まってしまっていたのだ。映画館から出て社会に影響を与えるような作品が長い間全然作られてこなかった(尤も、これは狙って出来るものではないんだが)。

 ただし、本作と、あまり認めたくないけど翌年の『失楽園』の2作がほぼ連続投入されることによって、停滞はうち破られる。この二作が社会に与えた影響は極めて大きかったし、これによって、映画は自分たちが今住む日常の延長としてファンタジーを持たせてくれるものであることを改めて感じさせてくれた。実際この年を堺に、若手監督作品は爆発的に増えたし、実験的な作品の中から極めて良質な作品も誕生したし、更にヴェテラン監督達にとっても良い刺激となってくれていた。以降現在に至るまで(現在2003年)、エンターテイメントとしての邦画は続いている(ついでに言うなら海外への配給作品も飛躍的に伸び、国際賞に日本人監督の名前を見かけることも珍しくなくなった)。

 私が見る限り、本作こそが邦画の転換点と言っても良い。

 本作の売りは何と言っても社交ダンス。この映画のお陰でそれまで細々と趣味の世界で経営されていたダンス教室には人だかりがするほどになり、雨後のタケノコのようにダンススタジオが次々と開設されていった(実は私の仕事の上司も始めて、休みの日に招待されて見に行かされたことがある)。

 それだけの社会現象を起こした作品なのだが、作品自体は一見目立った作品ではないのが面白いところ。確かに丁寧に作られた作品だったし、役者の面々も魅力があるが、決してそれまでの邦画の範疇を越えたものではない。しかも前述の通り社交ダンスは当時決して流行していたものではない。

 他の邦画との違いを考えてみると、先ず本作は中年以上の人たちを対象とした、割合対象年齢が高い映画であることと、あくまでプラトニックを貫き通したこと。そして“誰にでもなれそうだ”と思わせることに成功したこと。この辺か?

 実際、本作の役所広司演じる杉山はどこにでもいるお父さんって感じだったし、それが趣味に目覚めてから、生きがいを見いだして活き活きとしてくる。それがなんだか羨ましく思えたのかも知れない(失楽園はベクトルこそ違えど、やっぱり日常の延長で活き活きする男女が描かれていた)。しかも社交ダンスは一歩踏み出すのは割合簡単というのも一つの理由か。

 …ゴチャゴチャ書いてるけど、要するに流行というのは分からない。と結論づけても構わない(笑)

 個人的には、どう見ても普通だったら浮くだろう?と思える竹中直人のエキセントリックな演技が妙にはまっていたのが嬉しい(笑)

(評価:★4)

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