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[コメント] スター・ウォーズ ジェダイの復讐(1983/米)

神話の系譜の完結。あるいはとても健全な物語。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 『スターウォーズ』シリーズは多くの人に影響を与えた物語と言われるが、ここでは心理学的なものに限って知ったかぶり書かせていただこう。あくまで知ったかぶりなので、面倒くさい人は読まないで結構。

 子供の成長とは何か。これはフロイト派もユング派も一致した見解だが、それは「親殺し」に他ならない。勿論実際に殺すのではなく、外面的に言えば「親離れ」のこと。子供が親との一体感を離れ、自分の道を歩む際、心の中にある親を殺さねばならないという点にある。

 ルークとベイダーの関係とは、まさに人間の心理で言うところの「親殺し」をトレースしている。

 子供は思春期にはいると、不安によって親との一体感を強く求める心と、親から離れようとする心に引き裂かれる(これがアンビバレンツと呼ばれる)。ルークがベイダーから真実を告げられた時の感情とは、一瞬に凝縮されたアンビバレンツであり、ルークはここでアドゥレッセンスつまり思春期を迎える。

 『帝国の逆襲』(1980)でベイダーがルークの父親である事を明かした時、ルークはその事実を否定する。これは心理学的に言う所の「否認」である。受け入れがたい事実を前にした時、それを認めようとせず、むしろそれを告げた人間に対して怒り出してしまう。  血の系譜から言っても、社会的にも親であることを否定できなくなったとき、そこで葛藤を生じさせることになるのだが、厳然なる事実を受け入れる方向へと心は「受容」へと変わる(これはキューブラ・ロスの言うところの人が死を受容する過程にもつながる)。  実はこのEP6はその事実を受け入れることによって、父を殺し、一本立ちするまでの過程が描かれているのだ。

 ただ、この物語では実際にルークは父を殺してはいない。むしろ父を赦し、最後に父を信頼することによって最後の試練を成し遂げる。だがそれで良いのだ。実は心理学的に言う「親殺し」とは、「一個の人間として親を信頼する」ことなのだから。  だから、このスター・ウォーズとは、ルークの心の成長を描いた作品だと結論づけても問題はない。そう言う意味ではこの物語の完結は、ルークが一人の人間として立つまでを描いた物語とも言えよう。そう言う意味では本作はとても健全な物語なのだ。

 さて、それでルーカスが元々考えていたEP7以降の物語とは何だったのか(最近になってルーカスはその構想を否定してるが)。実は神話では類型で語られるのはここまで。ここからはそれぞれ個別の物語へと移っていく。ある英雄は父なる神に認められ、本当の神になるし、ある英雄は有り余る力が暴走し、自らの破滅へと突き進むし、ある英雄は不死となり、永遠に戦い続ける運命を科せられる…

 本当はそこからが本当のオリジナルのスター・ウォーズ・サーガの始まりになるはずなのだが、多分それはルーカス自身によって語られることはないのだろう。閉じた物語として、それでも良いのかも知れないけど。

(評価:★5)

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