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[コメント] 紅い眼鏡(1987/日)

 この不条理な世界。押井ファンにはたまりません。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 初の押井守実写映画。キネカ大森の単館上映で、これを最初に映画で観たと言う人は数少ないだろう。筆者は当時大学受験で東京に来ており、このチャンスを最大限に活かすべく、わざわざ観に行った(お陰で東京での受験校は全て落ちたという思い出もある)。

 1995年。ほんの少し現代の日本と異なる日本。頻発するテロに首都圏治安警察機構(首都警)は特機隊を組織する。プロテクトギアと呼ばれる重装備により、「ケルベロス」の名で犯罪者を震え上がらせた特機隊であったが、世論の非難のため、解体を余儀なくされた。ただし、そこから3人の精鋭が逃げおおせた。

 そして1998年。国外逃亡していたたった一人の特機隊員都々目紅一がトランクを片手に日本に戻ってきた。彼の目的は?そしてトランクの中身は?  押井氏得意の不条理劇。当時の有名声優が多数出演したため、一部では公開前から有名になった作品である(漫画家のゆうきまさみ氏も出演している)が、パートカラーの白黒映画。更に内容が訳分からないと言うことで、一気に押井守の名前を貶めた作品でもある(本来これは主演の千葉繁氏のプロモーションビデオを作るという企画が膨らんだ結果らしい)。

 筆者にとっては思いでの作品であると同時に、時々無性に観たくなる作品で、恐らくLD稼働率の相当なパートを占めているはず。

 「1995年夏。人々は溶けかかったアスファルトの上におのが足跡を刻印しつつ歩いていた。ひどく暑い」

<以降加筆>

 1985年。『天使のたまご』を世に送り出し、アンダー・グラウンド的展開をさせた押井守監督が再び世に問う不条理劇。本来これは主演の千葉繁を題材にした個人のプロモーション映画を作ろうという企画が膨らみ、ついに映画となった作品。元々は情緒的な、任侠映画を撮るはずだったのが、どうせ採算は度外視と言うことで、押井氏が好き勝手に作り上げたため、まるで訳が分からなくなってしまい、一般的に観る限り、アングラ作品となってしまった。

 ただし、この作品を作ったことにより、後々押井氏の作品の中には不思議なふくらみを持った「戦後の日本」像が出来ていった。そこの世界では日本はアメリカではなくドイツに敗戦し、そして町中ドイツ製の機械で溢れると言う戦後の日本が描かれることになる。当時は氏としてもここまで設定が膨らむとは思っていなかっただろうに、まさに瓢箪から駒状態。この『紅い眼鏡』から、やはり実写作品『ケルベロス』が誕生し、後に藤原カムイ氏との共同執筆の形で漫画版「犬狼伝説」が、そして更に最後のアナログ・アニメの大作『人狼』が誕生する。そのルーツ的な作品と言って良かろう。

 この作品は押井氏にとっては初の実写作品であり、その分かなりの苦労もあったらしい。物語は基本的に同じ建物で撮られているのだが、これは山形県にある脚本家伊藤和典氏の実家の映画館。登場人物のスケジュールを強引に空かせて、バスで移動。不眠不休でカメラをまわし、帰りの移動バスで泥のように眠ったとか…まさしく強行軍で、様々な逸話を産んだ。凄まじい話だと、トイレのあさがおの中に顔を突っ込むシーンがあるが、これは普通のトイレ。徹底的に磨き上げて、さあ、撮影という段になって、そこで用を足してた人が…(ちなみによく画面を見ると、プロテクト・ギアのデザイナーである出淵裕がいたり、画面には顔が出ていないが、漫画家のゆうきまさみが出演していたりもする)。メインキャラの殆どが声優で、その顔が覚えるにも最適。ミスター・特撮こと天本英世の存在も大きい。特に玄田哲章氏によるダンスは必見。

 この映画の見どころと言われると困るが、強いて言うなら、名台詞の数々だろう。「正義を行えば世界の半分を敵にする」「犬は生きろ。ネコは死ね」「人が腐るから街が腐るんでしょうか、それとも街が腐るから人が腐っていくんですかねえ」「ディスコミュニケーションを求める若者が深夜集う不穏な空間」「トイレの中には親も兄弟もない」「1997年夏。人々は溶けかけたアスファルトの上に己が足跡を刻印しつつ歩いていた。ひどく暑い」「あなたの見る夢はどんな夢です?」「待っていたのは、俺だけだ」等々(LDを観ればいいんだけど、全て記憶で書いてます)。ジャンク・フードのこだわり。前述の玄田哲章氏によるダンス。後はなんと言っても後年押井作品とは切っても切れない関係になる川井憲次氏の音楽(どなたかこのCD持ってませんか?)。勿論カメラ・ワークなど…なんだ、結構見どころあるじゃないか(笑)

 ところでこの映画は私にとっては非常に思い出深い作品。劇場版を観に行ったのは前述したが、地方のレンタルビデオ店でこのビデオが置いてあった時は感激し、二度に渡って借り、しかもその為だけにもう一台ビデオデッキを買ってダビングをした。その後LDプレーヤーを秋葉原で購入した際は、5、6件CDショップを回り、ようやく見つけた時は本当に感動ものだった。実は私の生き方そのものにもある程度の影響を与えていることが、これを書いていて分かった(笑)

 この訳の分からない作品にはまった時の私は、完全に押井ワールドにはまったことを確信した。

 ええい。又観たくなったではないか。早速LDを取り出して…(と、言うことで、更に加筆の可能性があります)

(評価:★5)

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