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[コメント] ハウルの動く城(2004/日)

中盤からヒンがどうしても気になって、そちらばかり観ていました。だって、あの描写はどうしても某監督を思い起こさせるもんで。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 良い部分はたくさんある作品だと思うのだが、今ひとつ入り込めない作品というのが最大の印象。

 先ず良い部分というのを考えてみたい。オープニングの描写は流石。あのシーンだけでしっかり時代背景が分かるように出来てる。この時代は現実世界とリンクされているのみならず、スチームパンクの世界観も取り入れ、更には魔法という要素を入れた世界であることをよく表していた。この時代背景を現代的に考えてみると、期間的にはかなり狭い。多分20世紀初頭から第一次世界大戦前夜までの約10数年の間(実は『スチームボーイ STEAM BOY』(2004)よりも後の時代となっている)。その辺が分かる人には分かるように描かれているのは巧いなあ。あるいは現実の第一次世界大戦とリンクしているのかも知れないな。

 ハウルの動く城の描写はなかなか凄い。歩くたびにすべてのパーツが別個に動き、屋根の瓦一枚一枚まで動いてる。あんなのがちゃんと動かせる技術力は認めずにはおられない。外だけでなく、城の中の生活感なんてのは、なんか嬉しくなってくるくらい。適当な場所に保存できる食べ物が置いてあり、適当に切り分けて食べるとか(事実私だって時間のない時の朝ご飯はそんな感じだ(笑))。

 ストーリーにおいても、設定のおもしろさは活かされており、最初のハウルがソフィーに対し、妙になれなれしい感じは、実は過去にソフィーに遭っていたと言う事実を考えると、なるほど。と思える。あれは偶然ではなく、ハウルがソフィーを捜していたと考えると、なかなか楽しい。

 それに、「家族を作る」という話は私にとってはツボ。これの主題の一つはまさにそこにあったはず。ソフィーにとって血縁としての家族はあまり親しいものではない。妹とは多少仲が良いものの、それでも妹の存在はソフィーにとってコンプレックスを増すだけの存在であり(劇中ソフィーが自分の容姿をこき下ろし続けるのは、妹の存在あってのことだと分かる)、享楽主義者の母はソフィーより自分の幸せを優先している(ソフィーが風邪を引いたと弁明した際、あっさりと部屋に入るのをあきらめてしまうし、強迫されたからと言って、ソフィーをあっさりサリマンに渡してしまう描写にそれが良く現れている)。それに対し、元は都合で集まったはずの仲間達の方が遙かに家族として暖かみがあるって描写も良し。

 相変わらずの久石譲音楽も耳に心地よし。

 …と言うことで、良い部分はたくさん挙げられる。

 ただ一方、悪い部分も相当に多く、ちょっと首をかしげる部分が多すぎ。

 キャラクタだが、木村拓哉をハウルに起用したのは正解だったか失敗だったか?最初のソフィーとの邂逅シーンでの声の演技は見事で、凄味のある声を出したなあ。と思ったのだが、話が進んでいくと、しゃべり方が一本調子で、最初のイメージが覆されてしまう。ソフィー役の倍賞千恵子も、色々声を変えようとしているのは分かるんだけど、その声は90歳の老婆にも、18歳の少女にも聞こえない。実写畑の人を連れてくると往々にしてこういう事が起こる。だって、自分の姿を出すのが仕事なんだから、それに合わせた声を出すわけで、自分の年齢と異なる人間の声を出すのには慣れてないから。それが時として部分的には凄く良かったりするけど、全般を通してみると、やっぱり声優のプロに任せるべきだったんじゃ?バランス悪い。描写にしても、物語の中心となるべき荒地の魔女とサリマンがアクセントにしかなってないのね。それはかかしのカブも同じ。あんなオチを付ける必要は全くなかったんじゃないのか?あ、カルシファーの我修院達也は大当たりだったけど。

 それで物語自体だけど、とにかく説明過剰および説明不足。その差が極端。90歳の老婆にされたソフィーがどんどん若くなっていくのだが、それが全然説明されてない。荒地の魔女がソフィーを老婆にした際、一言でもヒントを出していれば、大分わかりやすくなったろうに。それに劇中年齢が勝手に上下するのもなあ。一応相手を好きになった時に若くなり、突き放した時に歳を喰うようだが、それも説明が必要だよ。しかもソフィーは90歳になって、その事に対し、怖れがない。むしろ90歳であることを楽しんでるように見えてしまう。じゃ、ソフィーの目的っていったい何なの?呪いを解きたいんじゃなくて、人から離れたところで生きていきたいだけ?

 一方のハウルはハウルで自分で「弱虫」と認めてしまってるけど、これは喋るべきじゃないだろ。むしろこういう精神的なものは描写力で描いて欲しかった(ソフィーに城から蹴り出されるハウルなんて姿を観てみたかった気がする(笑))。

 それと意外だったのは戦争の描写なのだが、戦火が近づいているのに、ハウルの城に住んでる面々にとっては、戦争というのは別世界の話にしか見えてない。何のための戦争なのか、どこと戦ってるのか。それは全く重要じゃない。ただハウルが自分たちを守ろうとして戦っているという事実だけが取り上げられている。まさか男は戦いに行くもので、残された家族は銃後の備えをしっかりしろ。と言うマッチョ的な発想?そう言うのを駿さん、嫌ってたんじゃなかったか?

 ソフィーの表した「勇気」や「強さ」は目の前に置かれている現実にのみ向けられいて、それを超える要素がない。彼女は全てをありのままに受け止め、相手に決断を促すことはあっても、自らは基本的に受動的だし。「強さ」の意味がこれまでの宮崎作品とは随分違っているように思える。

 これまでの違いと言えば、キス・シーンの多用もあるな。これまで精神的なつながりを最後に持って行くのが多かったのに、今度はえらく物理的だ。

 更にもの凄く細かくなるけど、料理シーンもちょっと。あんな分厚いベーコンと卵を炒める場合、ああ言う作り方すると、ベーコンが生焼けのままになるんだよね。ベーコンだけをじっくり炒めて、それを取り出してからその脂で卵を炒めなきゃ。私は料理とか食事シーンが大好きだけに、そこをちゃんと描写して欲しかった。

 監督が作りたいものを作った。というのはよく分かるんだけど、しかしだからといって、これが正解だとは思えず、違和感がどうしても残る。何度も観て欲しいのだろうか?あるいは足りないところは原作でどうぞ。と言うことか?

 後は関係ない話なんだが、ここに登場するヒンが妙に気にかかる。あの目つきと言い、ぼそぼそとしたしゃべり方(と言うかヒンヒンと吠くだけなのだが)と言い、妙なずぼらさと言い、どうにも某監督を思い起こさせるのだが…2004年のジブリ二本投入って事で、遊んだんだろうか?どうにもそれが考えすぎには思えず、中盤からそっちばかり気になってしまった(笑)

(評価:★3)

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