コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] チャーリーとチョコレート工場(2005/米=英)

デップは今年だけで2回もネバーランドに主演しました。一本目は作者として。そして二本目は…
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 マイケル=ジャクソンのコスプレで。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−閑話休題−−−−−−−−−−−−−−−−−

 ロアルド=ダールによる童話をモティーフにバートン&デップという最強コンビで作り上げた作品。既に1971年にスチュアート監督により『夢のチョコレート工場』が製作されている。私は現時点では原作も最初の映画化作も観ていないが、本作には大変期待していた。何せバートン&デップは私にとっても最強コンビであり、この二人が組んではずれだったことはない。ものすごい期待を胸に劇場へ。

 まず凄いのはデップ。この人は性格俳優になる素質充分なのに、あらゆる作品で見事にはまってしまうという、その器用さには驚くばかり。本作では他の誰でもなく、見事なまでにウィリーになりきっていた。常ににこにこしていながら、表情がまるでとってつけたような仮面のようで、その笑みは極めて邪悪に見えたし(なんでも娘に「気持ち悪い」と言われたそうだが、その「気持ち悪さ」こそがウィリーの味だ)、チャーリーの何気ない一言によって、仮面が瞬間的に壊れた時の表情が又素晴らしい。同じ微笑みであっても、ラストシーンでの笑みがストーリー中の笑みとはまるで別物に演じ分けているのも流石という出来。それに対応するチャーリー少年は毒気が全然無いのだが、それがウィリーの持つ毒気と相乗効果をもって、上手く中和してくれていたし、他の細々したキャラも含め、配役は見事。老いてますます盛んという御大クリストファー=リーがここでも良い味を出していたし、このキャラをわざわざ持ってきたのもバートンらしくて良し(ちなみに監督はリーの大ファン)。

 演出も良い。オープニングシーンは、最近ではすっかりなりを潜めた接写を駆使したもので(かつてバートンが『ビートルジュース』(1988)、『バットマン』(1989)、『シザーハンズ』(1990)と連発してオープニングで使った技法だ)、バートンファンとしてはそこだけでも嬉しい。更にバートンは生の特撮にこだわりのあるところが特撮好きとしてはたまらないのだが、ここでもチョコレートのねっとりした質感はCGではなく、本物の川を作ったという、そういう生へのこだわりが感じられたのも嬉しい(リスも何匹かは本物を使っていたとか)。ウンパ・ルンパのミュージカルも耳にこびりつきそうな面白さだったし、子供にここまでするか?というお仕置きの数々もそれぞれに個性あって良し。命に関わるようなシャレにならない罠をしかけて、それを大げさに喜んでるデップの表情も面白い。突然「ツァラトゥストラかく語りき」が流れて、場面が突如『2001年宇宙の旅』(1968)になった時は心の中で喝采を上げていた。流石よくわかってらっしゃる(ところであそこで『2001年宇宙の旅』のオープニングっぽいシーンが流されたけど、むしろこれは失敗に終わったバートン版『PLANET OF APES 猿の惑星』(2001)の意趣返しか?とも思える訳だが…)。

 更に本作は描写的に毒気は多いが、決してそれだけで終わっていない点も重要。結局最後は家族の素晴らしさと言う所にしっかり着地している。これはバートン監督の昨年の作品『ビッグ・フィッシュ』(2003)を経ての、新しい境地の開拓と見ることもできる。そういう意味で大変バランスに優れた作品に仕上げてくれた。その辺のバランス感覚は大変見事で、後味も良い。ウィリー自身の中にあるトラウマと戦っていくという過程も、ベタながら嬉しい作りだ。

 で、一個の作品として見る限り、本作は大変良い作品と言える。理屈で考える限り、本作に文句を入れるべき所は少ない。

 …ないのだが、何故かちょっと不満を覚えてしまう。敢えて言えば、それは私がバートンに求めているのは、こんなに整理された万人向けの居心地の良い作品だったのだろうか?と言う点。もっとぐっちゃぐっちゃで中途半端で、解釈を観る側に丸投げにするような作品こそがバートンの真骨頂ではなかっただろうか?子供にちょっとしたオイタをするだけじゃなく、中に入った大人の方が叫びだして逃げようとするくらいの悪意があっても良かったのでは?その結果として話がまとまらなくても良い。例えば工場が暴走してしまい、工場の周囲に集まった大人達までが恐ろしい思いをさせておいて、チャーリーとウォンカはその結果ボロボロになってしまい、最後に帰るべき所として家族を提示してやったのなら…そこまでやって欲しかった。

 本作はバートンの作品としてはまとまりすぎている。本作には、バートン流の悪意があまりにも希薄なのだ。悪意ではなく、職人技と優しさをその替わりに置いてしまったような…ファンの感じる贅沢すぎる感想なのかも知れない。むしろファンとしては監督が制作する側として成長したことを喜ぶのが本筋なのだろうが、それは私自身がまだそういう境地に至ってないからなんだろう。普通に「良い監督」にしたくないって気持ちが強いんだろうな。理性ではこれは佳作だと言ってるのだが、感情がそれを否定する。  本作をバートン以外の監督が作ったのならば、文句なく点数が上がるのだが、どうやらバートンは私には特別な存在らしい。敢えて★3。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (4 人)りかちゅ[*] Keita[*] わっこ[*] 水那岐[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。