コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 世にも怪奇な物語(1967/仏=伊)

私にとって大切な「悪夢映画」の大切な一本です。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ポオ原作の短編小説をオムニバス形式で映画化した作品。「黒馬の哭く館」をロジェ=ヴァディム、「影を殺した男」をルイ=マル、「悪魔の首飾り」をフェデリコ=フェリーニがそれぞれ監督。

 幻想文学で知られるポオはアメリカの作家で、実際これまでにも何本かがハリウッドやインディペンデントで作られている(その筆頭はロジャー=コーマン)。しかしそれを敢えてフランスで、しかもイタリアからフェリーニまで招いて作り上げたと言う珍しい作品。

 しかし、敢えて言いたい。よくぞフランスで作ってくれた!と。

 ポオの作品をアメリカで作ると、文学的よりホラー的部分ばかりが強調された作風となってしまい、肝心な文学性が消えてしまうもんだが、フランスとイタリアの、しかも一流監督が競作したお陰で、私好みの幻想文学が見事に映像化されていた。

 特に私は悪夢を題材とした映画が大好き。多分これこそが私にとっての最大の映画鑑賞ポイントとなるだろう。恐がりのくせにホラー映画が好きなのも、多分それが理由だろうと自分では思ってる(ギリアムの大ファンというのも同じベクトルだと思う)。

 私にとって映画を観ると言うことは、一種、悪夢を題材とした、質の高い映画を探し求めていると言うことになるわけだが、そう言うのってそう多くはない。しかしこれはまさに私の好みと見事に合致。三つが三つとも、まるで悪夢そのもののような題材を用い、しかも全てキャスト、スタッフとも一流どころを用いて質が高い。

 そう言うことで、悪夢というキー・ワードを用いてこの映画を考えてみよう。

 最初の「黒馬の哭く館」は、主題通り。ジェーン=フォンダが犯した過ちより、徐々に黒馬の呪いに引きずり込まれ、やがては現実感を失っていく。その課程が本当に巧い。とくにジェーン=フォンダの表情が、徐々に変化していく様子は見事としか。弟のピーターが出演し、旦那のヴァディムが監督という(同年製作の『バーバレラ』(1967)も、ヴァディム&ジェーンの作品だったが)、家族で作ったような作品だが、炎を伴う悪夢世界に引きずり込まれそうになった。じっくり観たくなる作品。

 2作目の「影を殺した男」はアラン=ドロンを主役に据えたお陰で、なんか“悪夢”って言うよりはフィルム・ノワールの雰囲気をぷんぷん匂わせているが、そのドロンの不安な顔と、突如観るヴィジョン。そして自分自身のドッペンゲルガーとの対峙という、本当にそのまま悪夢と言える作品となっていた。

 それでこれはもう言うまでもないが本作において最も質が高いのが3作目の「悪魔の首飾り」。この不気味な世界観と演出の巧さ!これだけ見事な作品が出来たのはやっぱりフェリーニという監督の実力あってこそ。

 フェリーニは代表作の『』(1954)であれ、『8 1/2』(1963)であれ、白黒時代の作品が主に評価される傾向にあるが、私はこの監督の魅力とは、決してそれだけではなく、カラー作品の色彩感覚の素晴らしさにもあると思ってる。実際『フェリーニのアマルコルド』(1974)で見せた雪の白さの中で孔雀が羽根を広げるシーンと言い、『魂のジュリエッタ』(1964)で見せた、真っ白い部屋に登場する原色のサーカス団と言い、その色彩感覚の非凡さには驚かされるばかり。そして本作では黒の中に浮かび上がる光の演出がとにかく凄い。暗闇の中に車のライトを当てることによって、なんと通常のカメラがそのまま俯瞰のカメラに変わる。見えるのはほとんど画面の下半分だけ。しかも疾走する車の中からの視点なので、見えるのは瞬間瞬間だけ。まるで風景が逃げていくかのような錯覚を与えてくれる。これが何とも凄い不安感を演出し、居心地の悪いことこの上なし。こんな演出方法があったとはなあ。驚くばかりだよ(と、言いつつも実はこれは後年押井守によって『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984)で用いられてたりする)。

 無茶苦茶なスピード感に溢れていたからこそ、最後に現れたボールを持った少女の静けさが映える。あの不気味さよ。まさに夢に見そうなシーンだった(これ又「ウルトラQ」の「悪魔っ子」で似たようなシーンが使われてるんだが)。緩急の使い分けが無茶苦茶巧い。で、いきなりその少女に向けてジャンプするシーンで、次に来るべき“ガッシャーン”という音を期待していると、なんと次に来る音は“キィ…キィ”というもの静かな音だけ…それでカメラが寄ると…うわああ。なんだこりゃ。凄え!!!マジそのまま悪夢だよ。これは

 ところで悪夢というキーワードで見るなら、悪夢というのは二つに分かれると思える。片方は何者か知らぬ恐ろしいものに追いかけられる夢と、逆にどうしても欲しいものを追いかけていて、決して手が届かないと言う夢があると思う。1作目と2作目は前者であり、3作目は後者として捉えることが出来よう。オムニバスで、主題を変えたからこそ出来た芸当だ。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (4 人)いくけん[*] おーい粗茶[*] ボイス母[*] セント[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。