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[コメント] 夜と霧(1955/仏)

 これを“当時の普通の光景”として受け取るか、それとも、自分自身の問題として受け取るか。記録とは、そういうものです。それにしても構成の巧みさ。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 ホロコーストに正面から取り組んだ世界初の作品で、ただ克明な記録作品となっているのだが、これほど乾ききった、恐ろしい作品は希有だろう。少なくとも私にとって本作は私自身の心に大きな傷痕を残した。“衝撃”こそが私自身の映画を観るモチベーションだとするなら、本作は確かにそのモチベーションを徹底して満足させてくれる作品だった…後味は凄まじく悪いが。

 本作を観たのは、東京在住時の名画座で。その時は分からなかったが、これは完全版だったらしい(ブルドーザーで死体を集めるシーンもちゃんと動いていた)。

 私たちが暮らしている現代の生活というのは、歴史の積み重ねの上に成り立っている。その中には楽しいものばかりではない…と言うよりは、むしろ目を背けたいものの方が多い。それを記録する事は可能であっても、その克明な現実を観たがらないのが普通だろう。

 この作品のように、「人が見たくない現実」を見せつけるというのも、やはり映画としてはありなんだろう。ここで描かれていたのは、“物体化した人間”の姿であり、そして人間を単なる物体にしてしまったのは、やはり人間であるという単純な事実。感情を持たぬカメラは、ただそれを記録し、その記録が私たちに迫ってくる。そこにある物体は、本来人間として生き、肉体的にも精神的にも、後の世に某かを残すべき存在だったはずなのだが…

 本作に登場するのは基本的には物語ではない。ここに映されていたのは、当時の“普通の”光景だったのかもしれない。実際、これを目撃して(あるいは体験した)人だって実際にはいる(勿論ドキュメンタリーというのは、監督(あるいは脚本)の意図的な方向性というものを持つし、本作だってそれは充分あったはずだが)。

 それをどう受け取るかは観ているこちら側の問題だ。

(評価:★5)

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