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[コメント] 浮草(1959/日)

 風や雨などの派手な演出は小津監督らしくもないけど、このキャストに見合うだけの演出にはこれが必要だったのかな?
甘崎庵

**ネタバレ注意**
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 本作は小津映画の晩年の作品になるが、戦後の他の作品と較べても、少々特異な位置にある作品。カメラアングルとか、紛れもない小津作品であるにもかかわらず、物語はどこかぴりっとした辛口風味があり、人たちが感情をあらわにする描写も他の作品に較べると大変多い。物語も舞台風だし、季節の移り変わりも、徐々に色が変わるのではなく、雨や寒さという物理的なものを用いている。

 そう思って調べてみたら、本作はもともとサイレント時代に小津監督自身が作った『浮草物語』(1934)のリメイクだとか。それで納得。戦前と戦後では小津監督自身の映画の作り方が変わっていたが、それが丁度合わさった作品と言うことになるのか(元は喜劇調の作品だったそうだが)。

 特に戦後の小津作品には基本的にカメラ・ワークが存在せず、ほとんどの場面がカメラ・アングルで処理される。いわば大変ダイナミズムを演出しにくい作品なのだが、それだけに役者の技量がここで問われることになる。それに充分応える形でのここでの中村鴈治郎と京マチ子の演技は素晴らしい。

 悋気と短気がぶつかり合い、土砂降りの中で道を隔ててお互いをののしり合うのだが、その怒鳴り合う姿は小津作品そのものを超えて、もの凄いダイナミズムを見せている。

 物語自体は私の好みでは決してないにせよ、この二人に京マチ子、若尾文子、杉村春子と言ったそうそうたるキャストを揃えたお陰で、キャラクタだけで充分堪能できる。配役の勝利とも言えるだろう。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)山本美容室[*]

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