[コメント] 秋刀魚の味(1962/日)
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本作は小津映画後期の傑作と言われている。小津映画を代表する作品は何か?と聞かれると、多くの人は『東京物語』(1953)と答えるかもしれないが、普遍的な小津映画は?と聞かれると、むしろ本作や『晩春』(1949)のような、父が娘の婚期を心配する話の方を考えてしまう。
それだけに本作は円熟期を迎えた小津監督が自分の造りたいものをのびのびと作り上げた作品という感じで、小津の思いが込められているように思える。
時代は移り変わっていく。その中で、親子関係を見つめてきた小津が、ここで最後、本当に今でしか作ることが出来ない作品を作ろう。と思い立ったのだったら、確かにこの普遍的テーマは最も小津らしい。
もう60年代になると、これまでの価値観は大きく覆され、若者の時代へと変わりつつあった。激動の太平洋戦争を戦い抜いた男達はもう一線から引き、戦争について話すことも禁じられてしまった。そして戦争のことなど微かな記憶にしか残さず、今の青春を謳歌する若者達の姿。既に邦画にも多くのヌーヴェル・ヴァーグ作品だって出ている。 しかし、そう言った価値観の変遷の中でも、きちんと見据えておかねばならないものとして小津が投入したものこそが「親子関係」なのではなかろうか?
いわば、本作は当時としても時代遅れのそしりを免れなかっただろうが、それを時代遅れとさせないことが出来たのが小津監督の凄さとも言える。表情に乏しい笠智衆が、かつて自分がどれだけの激戦をくぐり抜けてきたか、いつものように淡々と語る口調こそが、小津の負けん気であり、そして小津自身が愛してやまない時代とのぶつかり合いを代表するものだったのだろう。
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