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[コメント] ボビー(2006/米)

これだけ豪華で尖った作品が作られるってことで、まだまだハリウッドは捨てたものじゃない。と思わせてくれます。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 かつてブラット・パック(悪ガキ)と呼ばれた若手俳優の一人(この中には弟のチャーリー=シーンやトム=クルーズもいる細かくは『アウトサイダー』(1983)および『ランブル・フィッシュ』(1983)を参照のこと)エミリオ=エステヴェスの監督作品。この人はその中ではそこそこ成功した方だと思うのだが、最近は活躍の場をテレビドラマの方に移しており、あんまり見かけなくなってしまった。そんな人が監督?正直あんまり期待はしてなかったのだが、何せこれだけの一流俳優を一堂に会した作品。一応抑えておかないと。という思いで劇場へ。

 作品そのものはモロに『グランド・ホテル』(1932)そのまんまの群像劇。豪華俳優を配する方法も、物語を時間軸に沿ってザッピングしていく方法も同じで、明らかに引用したと思われる箇所もいくつかあり。だけど、何せキャラクタが凄すぎるため、その芸達者ぶりを観てるだけでも、映画好きには至福の瞬間。

 これはホテルにとって特別な一日を描くのだが、後半に至るまではなんということはない。いつもの生活の延長と言った感じの物語が展開していく。その中、1968年という時代に起こっている出来事や、その当時のアメリカ国内の影響なども巧みに取り込んで魅せてくれる。この年はアメリカでもかなりの混乱期にあった。ヴェトナム戦争は泥沼状態に陥り、次々に戦死報告が運ばれて反戦が叫ばれていたし、そのプレッシャーの中で若者は麻薬の陶酔による自己啓発へと傾倒していくヒッピー文化が台頭していた。旧来のアメリカのフロンティア精神そのものが否定されようとしていた時期でもあった(そのままこれは映画の混乱でもあり、この年の映画を並べていくだけでも実に興味深いものがある)。当時の熱気がそのまま再現されたような作りは大変面白い(ちなみに私の生まれはこの年でもあるんだが)。昨年のオスカーを得た『クラッシュ』(2005)は現代をテーマに取った群像劇なので、見比べてみると面白い。

 だが、本作の主要テーマは単に当時の雰囲気を出そうとしていることだけではない。それよりもっと重要な事。映画が一貫して持ち続けてきた、時代への警告そのものが本当のテーマであると思われる。

 映画人にはリベラリストが多いが、特に最近ハリウッド映画も保守化が進んできて、この手の作品はどんどんインディーズ化してきた。そこで本作が登場したのは大きな快挙であろう。そもそも大人社会への反抗を標榜してきたブラット・パックの面目躍如。この年になってもちゃんと反抗心を持ち続けてくれたエステヴェスに拍手を送りたい。こんな尖ってる人が今もちゃんといて、きちんとした作品を作ってくれることが嬉しい。

 そもそもこれだけの豪華キャストが格安で大挙して登場するのは、彼らも又その思いが強かったからなのではないだろうか。

 映画って言うのは、どこかに社会に対し警告を持っていて欲しいと思っている私の好みにも見事に合致。ちょっとばかし主張がくどすぎるのもご愛敬か?

 非常に優れた作品ではあるのだが、ラスト30分のトーンが変わりすぎるのと、そこまでに至る登場人物の関わりがもう少しあって然りだったのでは?と思うと、ちょっとだけ勿体なかった。これだけの芸達者がいるんだから、もうちょっと心にずきっとくる描写があっても良かったかも。全てがラストで収束するとしても、それだけで終わらせるには勿体ない。それにザッピングの仕方が非常に巧かった『クラッシュ』を途中で思い出してしまい、あのレベルまでは行かなかったことで、少々減点。

(評価:★4)

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