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[コメント] トゥルー・ロマンス(1993/米)

「中二病」全開脚本をよくぞここまで仕上げたもの。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 私は男だから女性の心理は分からないけど、男には成長過程で“ある時期”というのがやってくる。それは簡単に言えば、妄想にドップリ漬かり込む時期というものだが、男の妄想というのは他愛もないものがほとんど。大体は、突然自分の前に絶世の美女が現れて、ひたすら自分に尽くしてくれることだったり、自分が突然地球を救う戦士に選ばれたのだとか、あるいは自分には何か秘められた力があって、暴力的な衝動に駆られるとか、いじめっ子をぼこぼこにして、「恨んでないよ」と言いつつ握手するとか…性衝動と暴力衝動を抑える自己防衛機能かと思われるが、こう言うのは中学生や高校生くらいで発症することが多いので、近年「中二病」などと呼ばれるようになったのだが、妄想ばかりがふくらんでいき、そのくせ自分からは何もしない。口を開けて私を連れ出してくれる人がいないか?と待ってるような時期である。

 こういう時期って男の成長過程には必要なもので、それが悪い事ではない。むしろそのリビドーを持ち続けられる人こそが、パワーを持った映画や小説を作れる、ある意味選ばれた人間になることにもなる。

 実際、様々に形を変え、映画やアニメといったものは、これらの要素を汲み取って作られたものが多い。クリエイターには重要と言えば重要な要素でもあるのだ。

 そう言う意味で、子供のような感性を持っている事が、特にデビュー直後のクリエイターには求められるわけだが、それを最も端的な形で出すことが出来たのがクェンティン・タランティーノという人物だった。この人が若い頃はビデオ店で働いて、店のビデオでも過激なものばかりを観続け、休みになればグラインドハウスに出かけていっては、大画面でB級映画を観ていると言った、本物の映画狂いの人物だったわけだが(とりわけ70年代の過激な邦画が大好きになったのはこの時代に徹底的に観まくっていたから)、天性の才能に加え、そんな生活のお陰で少年の頃の妄想そのものを映像化出来るような人物となっていったのである。

 そんなタランティーノが妄想全開で書き上げた脚本が本作。おそらくこの主人公クラレンスは「こうなりたかった」(あるいは「こうなりたい」)タランティーノ自身の姿に他ならないのだろう。なにせ前述した「中二病」の要素が見事に全部詰まってる。自分の大好きだからというだけの理由で千葉真一の映画や、導師(メンター)としてプレスリーまで(キルマーが演じてる)まで登場させる悪ノリのし放題。

 この作品には大人の事情も駆け引きも存在しない。ここにいる人間達は、怒りにまかせ、あるいは自分が生き残るためにまっすぐにぶつかっている奴らばかり。物語としては最低の部類。だけど、爽快感は最高と言ったものだった。

 下手な監督が作ってればこの作品は単なるカルト映画になるか、そもそも映画にはならない類だったのだが、そんな中二病全開の脚本を、スコットは見事に仕上げてくれた。

 特に本作の面白さというのは、クラレンスの頭が完全にぶっ飛んでしまっていて、独自の価値観だけで行動してるので、その周囲の人間の行動を中心に描いてくれていたこと。突然キレ、突拍子もない行動に出るクラレンスに関わる人達も、どこかまともじゃないのだが、クラレンスに関わっていく内にいつの間にか自分がのっぴきならない場所に追い込まれていることに気付かされていく。むしろその描写を強くしたお陰で本作は上手くバランスが取れているのだとも言えよう。

 何より、ウォーケンとホッパーの二大個性派俳優の存在感が立ちまくり。独特の雰囲気を持つこの二人がぶつかり合うシーンは、アクション映画では最高峰の一つだと言っても良い。二人の演技の最も良い部分を上手く撮りだしたスコット監督の実力とも言えよう。演出にかけては本当に文句なしである。というか、よくここまで仕上げてくれたもんだ。奇跡的と言っても良いバランス感覚だぞ。

 物語自体が瞬間の連続で展開していくため、そもそも本作はストーリーテリングとしての機能が無いという根本的問題があるものの、それでも存分に楽しめる極上のアクション作で、暴力映画が好きだって人には特にお勧めできる傑作。

(評価:★4)

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