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[コメント] パットン大戦車軍団(1970/米)

あくまで戦いにこだわり続けた、まさしく“漢”の物語。格好良いぞ。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 パットン。歴史をこよなく愛し、歴戦の勇者に自らをなぞらえることを美学とした男。このような人は数多くいるが、彼は実力を持って、それを証明することが出来た、歴史上でも数少ない人間の一人。同僚の将軍達は次々と政治に転身する中、一人あくまで戦場に留まる事を選んだ男。戦場の中に身を置くことを何より好んだ男でもある。まさに“漢”と称するのが一番正しそう。乱世の英雄を地で行く人物だったわけだ。

 こんな漢を主人公とし、しかも彼の奇矯な言動までもがきちんと述べられていると言うこの映画。見事にこの年の最多オスカーを受賞した。スコットは見事にパットンを演じきり、脚本のフランシス=コッポラは後にこの映画でのパットンを『地獄の黙示録』でのキルゴアとして蘇らせていたし、勿論監督のフランクリン=シャフナーもこの長丁場の映画をよくぞ撮りきった!と褒めてやりたい作品。見事な出来だ。

 その意味でこの映画を“戦争映画”というのは、ふさわしくなかろう。むしろパットンという実在の人物の伝記的映画の中に、必要不可欠なものとして戦争のシーンを加えた。と言う方が正しいと思う。それだけパットンを演じるスコットのキャラは立っていたし、それを目立たせるための演出はふんだんに行われていた(「私は戦場が好きだ」このしみじみとした言葉は凄いね。しかも周りに死体ばっかりと言う状況でそれを言わせるなんて)。

 最近は第二次世界大戦であれ、ヴェトナム戦争であれ、一兵士を主人公とする作品が多く、そう言うのばかりを観てきたので、こういう大局から見る戦争と言うのは逆にとても新鮮に映った。味方の中にあっての陰謀作術。メディアへの対処の仕方。いかに大衆向けパフォーマンスを効果的に用いるか。そう言う点では本当に見所満載。

 戦闘シーンに関しては、かなり作り込んだ感じで、とても小気味良い。ただちょっと残念だったのは、特に最初の山場、アフリカ戦線での戦いを俯瞰気味に撮ってしまったこと。確かにあの目線だと戦場が見渡せ、派手な戦闘シーンとなるけど、明らかに砲弾が当たってないのに吹っ飛ぶ人間や車両ばかりがクローズ・アップされ、チャチっぽく見えてしまう。後半、視点が人間目線になると小気味よくなるから、多分単純なカメラ・アングルの問題だと思うが。やっぱり戦車は人間の目で見るから格好良いんだろうし、それに遮蔽物のない砂漠をのんびり動くより、障害物を縫って突然現れる方が遙かに見栄えがする。全般的に後半になるに従い、戦闘シーンの描写は良くなる。

 本作は、出来の良さ故に名作となり得た作品だが、同時に多くの波紋を映画界のみならず、投げかけることになった。

 先ずスコットのオスカー受賞拒否(主演男優賞の受賞拒否は現代まででスコットとマーロン=ブランドの二人だけ)。アカデミーをとことん嫌っていたスコットらしい行動だったが、アカデミーに冷水をぶっかけるようなこの真似、本作の箔になったんじゃないかな?

 それと、年代を見る限り、ヴェトナム戦争を目の前にした時代…監督にその意思は無かったかも知れないけど、今から見ると、なんとなく戦争昂揚として用いられた節もなきにしもあらず…

(評価:★4)

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