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[コメント] バンテージ・ポイント(2008/米)

映画としてはとてもユニークな試み。ただアメリカのテレビドラマシリーズには、割とこういう話が多かったりして…
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 一つの事件を複数の立場の目から見るという一風変わったアクション作。このパターンは映画でもいくつか作られているが、主に推理もの。折角出来た流れを分断してしまうこともあって、アクション主体作で使うのは珍しい。と言うか、映画では初めてじゃないのかな?

 映画としては初めての試み。

 その試みは良い意味にも悪い意味にも働いてる。

 良い意味では、一見アクションが分断されているように見えながら、様々な伏線を頭に残しながら改めて同じ場面を観ることによって、観ている側にも様々に事件の展開を広がりを持たせられること。意外なことにこれが大変面白いし、興味深い。アクション作も、作り方によっては繰り返し同じシーンを見せられても飽きないのだな。これは以降の映画にとっても重要な事じゃないかな?息継がせぬアクションをつるべ打ちにするのではなく、一つの見せ場を大切にすることがこれから求められるのだと思うし。これを上手く使えばアクション作品に新しい可能性を切り開くことも可能だ。

 一方悪い意味では、折角の視点の変化なのに、もう一歩踏め込めなかったこと。複数の視点から同じ事件を見ると言う場合、サスペンスの場合は視聴者に対して罠を張ることが出来る。複数の視点から見ているのに、敢えて見せない部分を作ることによって、あるいは犯人の一人が事件を観ることによって、視聴者に混乱を与えると言ったテクニックが使えるし、事実それが複数視点の醍醐味でもあるし、私もそれを期待していた。はっきり言えば「気持ちよく騙してほしい」あるいは「悔しがらせてほしい」という思いがあった。

 だが、この作品の場合はメインがアクションであるため、その辺の描写が等閑になってしまった感じ。騙されたって感じがせず、何にも考えないままストーリーに身を任せていれば良い。という単純なアクション作品で終わってしまった。サスペンス色を強くするとテンポが落ちるという判断だろうか?結果的に取り残した物語性も多かったし、人間性を深めることも出来なかった。

 この作品の場合一つの事件を複数の視点で見ることによって多角的に見せる。というところで留まってしまい、もう一歩踏み出して「衝撃の事実」を見せるところまでは行ってない。悪く言ってしまえば、既成の普通のアクション作品を視点を変えて見せてみただけ。とも言える。その辺がちょっともやもやした感じ。もう一歩踏み込んで欲しかった。

 細切れで人間性を深めにくい作品ではあったものの、登場するのがヴェテランの芸達者ばかりのため、短い時間に最大限の個性を見せているのは丁寧な作り。それぞれが役柄に応じて性格を最大限によく出してる。作品そのものは目新しいが、人間描写に手を抜かないと言うところが最大のポイントと言えようか?

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)煽尼采 おーい粗茶[*] kazya-f[*] 死ぬまでシネマ[*] けにろん[*] 林田乃丞[*]

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