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[コメント] デトロイト・メタル・シティ(2008/日)

狙いは間違ってないし、そつなくまとめられてました。けど個人的にはもっともっと痛々しい青春を観たかった。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 原作の面白さは、自分自身の実体と虚像の乖離ぶりが話を進めていくに連れてどんどん大きくなっていき、それを受け入れていったり反発していたりしながら、結局流されっぱなしになる主人公の痛々しさを楽しむ作品なのだが、本作は原作を敷衍しつつ、新しい価値観を付け加えようとしていることが分かる。

 言ってしまえばそれは「これがボク。虚像として君臨してるこいつもオレ」ということ。自分自身を全てを受け入れ、自己を確立していくという、古くからの物語の定式にシフトしていると言う事。これは決して悪い事じゃない。原作は基本単発短編ギャグなのだから、キャラはなかなか成長しない(むしろどんどん堕落しているようにさえ見える)。こういう描写は例えば30分の連続アニメとかだったらそのまま使えるが、映画になれば、短い時間で盛り上げて、一本の物語として完結させねばならない。

 本作の場合、原作そのものの物語を使いつつも、ちゃんと自分を受け入れたところで物語が終わってるので、よくまとめ上げたものだと感心できる。マンガ→映画のシフトの仕方は実に上手い。

 キャラのはまり具合も良い。松山ケンイチは『デス・ノート』のL役のはまりが良く、あそこまでいくはずはないと思ってたら、実はそれ以上にはまってる。この短期間に二つもはまり役をものにしたのは実力もあるけど、かなり幸運なことだろう。クラウザーと根岸という全く違う二つの人格をたった一人でちゃんとこなせた事は特筆もの(まあ、渋谷系の歌を歌わせるのは多少難があるにせよ)。この話は物語云々よりも松山ケンイチのはまりぶりを観に行くと考えるなら、充分すぎる出来に仕上がっている。後、結構笑ったというか、ちょっと吹いたのがラストに登場する ジャック・イル・ダーク役にキッスのジーン・シモンズを持ってきたことか。タイトルの元となった『デトロイト・ロック・シティ』そのものじゃん。出演者の名前観るまで分からなかったけど、かなり笑わせてもらった。

 そう言うことでとても楽しい作品だったのだが、個人的にはちょっと引っかかる部分もあり。

 原作から変えて青春ものの作品にしたと考えるならば、本作の目指す先は“脱オシャレ”に持っていって欲しかった。ATG作品を今更やれとは言わないけど、どれだけ松山ケンイチが苦悩してる振りをしても、全部が全部オシャレにまとめ上げられてしまってるんだよな。メタルの演奏シーンも、観客全員が整然と決められたポーズで観ている中、プログラム通りの演奏をしてるって感じで、即興やパッション…言うなれば泥臭さが全然なし。メタルも又ファッションの一つにされてしまってる。現代に求められてるのがそれだ。と言われたらそれまでだけど、青春なんてもんは後で振り返ると身悶えするくらいに恥ずかしく、泥臭いものであって然りだし、それは昔から今も変わってないと思う。自分の過去を振り返って“どきゅん”とさせるような演出が一つでもあれば、これは最高の作品になり得たのだが。

(評価:★3)

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