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[コメント] イーグル・アイ(2008/米)

スレたSF映画ファンとしては、拳の振り上げどころに困る作品だとは言えます。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 これは丁度70〜80年代に映画に目覚めた人間にとっては、結構複雑な思いを起こさせる作品だ。丁度その頃の時代、映画にもSFが入り始め、こどもの頃はその設定にワクワクしながら観て、何度も何度も何度も何度も裏切られ続けてきた。設定や思い入れは分かるんだけど、特撮部分がとにかくしょぼくれていて、がっかりさせられた作品にばかりぶち当たったものだから。だけど、それでめげずに同じ失敗を繰り返す内に、だんだんだんだん、そう言う変な作品こそが好きになっていくという、ひねくれた過程を持った人間にとっては特に…誰とは言わんが。

 あの頃の自分がこれを観たらどう思っただろう?「こいつぁすげえぜ!」と思っただろうか?思ったかもしれない。だけどきっと「SF映画って本気で面白い」とは思わなかっただろう。

 描写部分は極限まで細かく描かれ、派手さと言い、テンポと言い、確かに素晴らしい。緻密な設定も、単純故によく練り込まれた物語も充分に楽しめる。これはまさしく、映画に目覚めた頃の私が思い描いていた理想的な映画には違いない。

 しかし、実際それが目の前に出されたとき、失望以外に覚えるものが無い自分に気付く。違うんだよな。これじゃ燃えないんだ。

 多分それは、本作では監督の顔が見えなかったからだろう…いや、顔は見えているのだ。ただそれがあまりに中途半端すぎた。

 昔からSFは監督の顔が一番よく見える作品だった。SFだからこそ、現実世界と切り離して監督の主張が出せたのだ。現実社会に対する徹底した皮肉も描けるし、現政権に対する婉曲した批判も出来る。何より、監督が「これを観ろ!」とメガフォンを使ってこちらに語りかけてくるような思いを受け取れた気がする…むしろ「作品よりもわたしを観て」という媚びかも?ところが本作にはそれが無い。いや、無いと言うよりも、それを主張しようとしているのがちょっとだけ見えながら、尻切れトンボに終わったようにしか思えない。

 現在の情報化社会においては、その気になれば個人が何処にいるのかから、そいつを操ることさえも出来る。ということを示唆しようとしていたのかもしれないけど、それがポーズで終わってしまった。逆にその中途半端こそが最も反発を感じる部分だったのかもしれない。折角のSFなんだから、あんな終わり方にせず、何もかもぶっ壊すか、コンピュータ社会そのものを完全否定するようなオチに持っていって欲しかった。

 中途半端に顔を出し、それで引っ込むなよ。出すんだったら自分を全部さらけ出せ。その結果物語が破綻したって付いてくる人間は付いてくる。カルーソーにはその覚悟が足りない。いくらスピルバーグが目の前にいるからと言って、遠慮してはいけない。これだったら物語的には無茶苦茶だった『トランスフォーマー』のベイの方がまだ思いきりだけは良かったぞ。カルーソーは物語を一旦ぶちこわして、「これは傑作だ!」と自画自賛出来るくらいになって欲しい。その中途半端ぶりが腹立つ。

 多分、長くSF映画を観てくると、描写云々なんかじゃなく、その「ぶち壊しっぷり」あるいは監督の顔が観たくなってくるんじゃないだろうか?どんだけ派手にしても、まっとうに作った小さくまとまったSF作品など観たくない。

 この辺は仕方ないところもあったんだろう。そもそも徹底的にスピルバーグによって仕切られ、ラブーフを映していればいい。という命令だったんだろうから。お陰でラブーフばっかり見せられ、SFの方が全然心に迫ってこない。そもそもスピルバーグがなんでこんなにラブーフの肩を持つのかが理解できない。ファンでもないので、全然嬉しくない。

 後、細かいことだが、やたらヒッチコック風演出が多いのも気になる。『北北西に進路を取れ』や『三十九夜』『知りすぎた男』からの引用が多いし、大体物語そのものがヒッチコックの得意とした“巻き込まれ型”作品そのものだしなあ。 

(評価:★3)

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