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[コメント] デス・レース(2008/米)

本作は掛け値無しに“馬鹿”な作品です。だけど、今のこの時代に、筋肉がみなぎりマシンが吠える。そんな馬鹿なだけの作品をこそ、求めていました。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 一応本作はSFの体裁を取っていて、細かく描けばいくらでも設定は作れるのだが、その辺の細かいツッコミは抜きに、とにかく改造車によるレース描写に特化して作られている。実際本作の場合、そんなことにツッコミ入れるのは野暮。

 もの凄い大味な作品なのだが、丁度この年に公開されたSF作品『イーグル・アイ』(2008)と較べてみると面白い対比となる。『イーグル・アイ』も基本はアクションで、カーアクション部分などとても力が入っているが、こちらの方は設定部分でも緻密に作られた純粋なSFとして仕上げられ、大変バランスの取れた作品だった。これはこれでSFファンとしては満足行く出来ではあったのだが、優等生の作った作品と言った感じで、弾けきれないアクションに妙にストレスが溜まってしまった。これを観たときに、SF映画はむしろもっと生っぽく、特撮と言いたい作品を作って欲しいもんだ。という思いを強くした。

 対して本作はSF的設定なんぞは、殺し合いのレースの説得力を付けるだけの味付けに過ぎず。とにかく馬鹿げた話を、生の迫力で見せようという心に溢れている。

 それで優等生SFと馬鹿SF。どちらが楽しいのか?と問われれば、私は何の躊躇もなく「馬鹿SF」と言う。優等生のSFなんて、ストレスの溜まるものばかり見せられてると、ストレスが溜まりっぱなし。だったら馬鹿上等。いや、馬鹿だからこそSFは面白くなるのだ。とも言いたい。むしろ今の時代にこんな針の振り切れたような馬鹿な作品を作ってくれたという事に感謝しよう。

 そういう意味でステイサムという人物は主役にうってつけ。いや、この人がいたからこそ、本作が作れたのだろう。割とインテリ役も出来そうな風貌してるのに、やってることは脳みそまで筋肉で出来てるようなキャラで、ステイサムがパワフルにやりたい放題やってるというだけで、何の説明も入らない。彼の筋肉が全ての説得力を代弁してる。筋肉がみなぎり、マシンが吠える。まさしく映画で求められてることを純化した姿がここにはあるのだ。

 それに何より、本作の場合、本当に“生の迫力”ってのがあるのだ。SFの場合、何でもかんでもCGだと思ってしまうと気持ちが萎えるけど、本当に車を動かし、本当に吹っ飛んで本当に激突する。実際この作品ではスタントマンが本当に運転してるのが分かる演出が数々なされているのだ。それだけでも幸せな気分にさせられる。

 演出に特化したという意味では、本作の演出は群を抜いていて、よほどのマニアだろうと思わせるいくつもの仕掛けが仕掛けられてる。それこそ1970年代、80年代、90年代のそれぞれの良い部分を抜き出し、それを2000年代風にまとめて見せてくれた(具体的に言えば、全般のテイストと設定が70年代、暴力描写が80年代、独特の魅せるカット割りが90年代と言った風情)。魅せよう!という意識に溢れてるのも良し。

 ただし、本作は本当に馬鹿な作品なので、「こんなの見せやがって」と怒りたくなる人もいるのはいるだろうけど、頭の中を空っぽにすれば本当に気持ち良〜くなれる作品なので、特に近年のアクション映画にストレスを感じている人には絶対お薦め。こんな馬鹿な作品を今作ってくれたという喜びに浸りたい。

(評価:★4)

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