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[コメント] チェ 28歳の革命(2008/米=仏=スペイン)

「革命」という言葉が心の琴線に触れる人は涙できます…ただし、それは多分心の痛さに。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 「革命」。これは何というか一定の年齢層より上の人だったら、ノスタルジックで魅惑的な響きを持つ言葉だ。なんせ今から30年前は、日常生活の中でもこの言葉は使われていた言葉なのだ。私は完全にそれに乗り遅れはしたものの、大学でそちらの活動とつながりを持ってしまった過去がある人間なので、「革命」という言葉には、過剰に反応しすぎる傾向がある。そんな私の前に、ほとんど初めて、“成功した革命の物語”が映画になって眼前に現れた!

 なんか心の奥底でぐわっと盛り上がる部分と、日常に既に飲み込まれた生活に慣れきってしまい、「もう遅すぎる」というあきらめの気持ちがない交ぜになり、私の心を襲いかかってくる。まるで失われた青春のひとときのように。

 お陰で2008年という時代に作られたくせに、もの凄いノスタルジックな作品として私は捉えてしまった(日本国内では、同じ気持ちを持った人は結構なパーセンテージがいると思うぞ。勿論それなりの年齢の人だが)。ああ、この年齢になっても「革命」という言葉はかくも心を乱してくれるものか。

 勝手に考えるならば、アメリカの映画人にとって革命というのは一種の鬼門だったのだろう。革命というのは“平地に乱を起こす”というイメージと重なるし、そんな危険なものを描いても客が入らなければ映画として成立しない。だから革命家というのは基本テロリストで、絶対悪として描かれる以外映画に登場する機会がなかった。でも何にせよ、待ち望まれていた「成功した革命」を真面目に扱った作品がアメリカでもようやく作られるようになったのだな。

 内容で考えるなら、本当に真面目に一人の人間の目で革命を描いたお陰で、異常な日常の中で、自分自身が戦士となっていく過程と、どのように戦士を教育していくか。と言う部分に強く主眼が置かれていて、歴史を敷衍するよりも、生々しい作りになってる。でもそれが良かった。特にゲバラが作り上げたいと念じていたのは、単なる政府を倒すことではなく、一人一人がきちんと考えを持って国を作っていく。という意識を持たせることだったことが分かるから。

 ゲバラの考え方は、スターリンや毛沢東のものとは全く異なり、民衆の力というか、良心を本当に信用したものであったと言う事がよく分かる。思想教育を重要視している描写が多いので、それが一種の退屈さにもなってるのだが、その辺を加味した上で観るなら、本作はいろんな意味で興奮出来る作りになってる。ちょっと理想的に過ぎるとも言われるだろうけど、映画だからこれで良い。

 演出面は目新しいところがないが、ジャングルでの暑さや、都市部の乾いた描写など、徹底して南国での戦いという印象づけがされていて、なかなか好感度も高い(冬に観るに限るけど)。

 …ただ、本作を「本当に楽しめた」。と言い切る人間はかなりヤバイ思想の持ち主か、あるいは相当に頭でっかちな人間だろう。

 その上で敢えて私はこの作品を「本当に楽しめた」と言おう。

(評価:★5)

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