コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] SR サイタマノラッパー(2008/日)

これだけ痛々しい作品を作っておきながら、実に爽やかに思えてしまう。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 今やカルト監督として名高い入江監督の本当の意味での出世作。

 本作の作りは非常にチープで、まるで80年代のATG作品のよう。途中までは、「ああ、こうやってだらだら続くのね」という感じで観ていたのだが、それが実に心地良い。  物語そのものは単純である。最初の内、何か大きな事をしてビッグになろうと思っているが、具体的に何をすればいいのか分からず、ラップという手段を見つけ、一歩を踏み出したは良いが、それでも軽い挫折を味合わされ続けるという具合に話は展開していく。

 まずこの部分の巧みさは言っておくべきだろう。それがとてもリアルなのだ。単なるリアルというか、居心地の悪い空間を敢えて長回しで撮ることで、登場人物達がいたたまれない気持ちになるのをじっくりと見せつける。そのため観てるこちらもなんだか変な空間に閉じ込められてしまった気にさせられてしまう。そんな時間が長々と取られるので、いたたまれないような気にさせられてしまう。観てる側の感情に働きかけられるショットをリアルに作れると言うことだけでも充分に監督の有能性を示している。

 「分かりたくないけど分かるわ〜」ってのがここまでの感想になるわけだが、この起伏の少ない物語がちゃんとラストに向かって収束していく過程が見事。

 最後の一ショット。あの長回しシーンの果てにある観客との一体感は、これまで積み上げてきた苛つきを瞬時に払うほどのインパクトがある。

 これまで散々「夢を持つと言うことはこれだけ痛々しいことなんだよ。と煽っておいて、最後に「でも夢を持っているからこの空間にいられたんだ」と描くカタルシス。実に素晴らしい。

 演出面においても、入江監督の代名詞とも言える長回しは本作で完成の域に達しており、敢えて長く時間を取り、しかもカメラを微妙に動かすことで不安を煽る手法としても使われつつ、最後のカタルシスに向けて疾走するカメラワークにも使われている。演出が見事にはまってた。

 青春の痛々しさを爽やかに描ききると言う、難しい演出を見事にものにしてるが、それは監督の目線が上からではなく、彼らを仲間として描いているからなのかもしれない。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。