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[コメント] トランスフォーマー リベンジ(2009/米)

オプティマスはマイケルの代弁者なのか?
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ほんの一月ほど前に『ターミネーター4』が公開され、こちらは思ったほどヒットしなかったので、ベイ監督はそれを引き合いに出してかなり挑戦的に本作の良さを語っていたが、少なくとも数字を見る限りでは、完全に本作の方が上を行っているのは事実。はっきり「面白い」と言える。ストーリープロットは単純ながら、ツボを抑えた演出と、派手なロボットバトルの噛み合わせが良く、更に人間側の努力をないがしろにしないように配慮された脚本には、前作とは格段の進歩を見せているし、物語もストレートなので、下手に勘ぐることなく、素直に流れに身を任せていればいい。かなり低年齢層をターゲットに捕らえたのは、成功だと思う。

 ただ、何故か主人公のオプティマス・プライムの台詞が引っかかる部分がある。人間に対しては、プライドの高さを見せつつも、低姿勢で対処しているのに、ディセプティコンとの戦いになった途端、「この屑鉄が」とか「スクラップにしてやる」「死ね」とかの台詞がばんばん出てくるし、更に倒れた敵には容赦なくとどめの一撃を食らわせている。

 人間社会で生きると言う事にオプティマスは相当にストレス溜めてるんだろうなあ。と思うに付け、ふと変な事を考えた。

 ベイ監督は何だかんだ言っても現在のハリウッドにとっては希望の星でのヒットメーカーだし、割と高確率でヒット作をものにしている。金の使い方は半端じゃないが、それに見合った見返りが期待できる映像作家であることは間違いがない。

 たとえ出来たものがスッカスカの中身空っぽ作品で、残ったのは数字と批評家の失笑ばかりだったとしても、本人はそれを全然気にしてるように見えない。「好きなものを作って、それが受けるんだったらそれで充分」と言うのが彼の主張だから…多分。

 そんなベイ監督に手をさしのべたのがスピルバーグ。思えばスピルバーグ自身もデビュー以来、少なくとも『E.T.』(1982)辺りまでは、批評家から娯楽作家としか見られてなかった(改めてスピルバーグ作品を観てみるとメッセージ性にあふれているのだが、当時の批評家はそれを黙殺し、観ている側もエンターテインメント部分だけを求めていた)。そんなスピルバーグからすれば、ベイは気になる存在だったのではなかろうか。それにドリームワークスの存続のためにはヒットメーカーの存在が不可欠だし、子飼いのラブーフをスターにも出来る。ベイと組むのは多少のリスクはあっても理にかなった考え方のように思える。

 それに出来るものがたとえメッセージ性皆無のスカスカの物語だったとしても、ベイ監督に足りない緩急も自分なら付けられると言う自負もあったんじゃないだろうか。スピルバーグとしては、爆発馬鹿のベイをコントロールすることが一つのモチベーションとなったとも思える。

 それで実際前作は、この二人の力がバランス良く合わさった作品に仕上がった。ベイの派手で見栄えのする大味な演出と、それをつなぐスピルバーグの緻密な演出によって、確かにうまく仕上がっている。

 そして本作はその関係が崩れることなく、ますますパワーアップしてる。ベイの持ち味の派手さは限定され、ダイナミックなシーンでもきちんと配慮された演出が見て取れる。  これはベイ監督の実力が上がった。と言う側面もあるだろうけど、抑えるべきところをスピルバーグから学んだところも大きかっただろう。

 一方、ベイ監督にとってはこの作品、かなりストレスも高かったようにも思える。

 オプティマスの言動はまさしくそのベイの真情を吐露してるように思える。

 人類を守ると言う意識にあふれたオプティマスは、人間に対しては慇懃な態度を崩さないが、言葉のはしばしに嫌味を込めることも忘れてないし、ましてやディセプティコンに対しては徹底的に罵倒し、容赦なく破壊もする。徹底的に押さえつけられたベイの心情を代弁しているのがオプティマスとも考えられよう。だったらスピルバーグの立ち位置は、官僚思考の塊人間のセオドアであり、同時に老トランスフォーマーのジェットファイアーとしているのではないかな?

 自分に翼を与え、消え去ってくれる老人。ベイにとってスピルバーグとはそう言う存在…であって欲しい。と言う願いが込められてるように思えてしまう。そう考えると、本作はかなりニヤニヤしながら観られる作品になる。

 さて、ベイに本当に翼が与えられたかどうか。それは確実に来るであろう第三部に期待させていただこうか。どうせなら本当に翼を持ってあらぬ方向にぶっ飛んだ、ベイ監督らしい作品を期待したい。そうすればこっちも思い切り罵倒してやれるし。

(評価:★3)

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