[コメント] 深夜の告白(1944/米)
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ラブ・コメディを得意とする監督として知られるワイルダーだが、監督初期の頃は、色々な素材に手を出していたし、その質も大変高いものばかり。本作も間違いなくフィルム・ノワールの傑作。いやむしろ、これこそがフィルム・ノワールの始まりと言っても良い。思うにワイルダーはこういった毒気を持っていたために、ラブコメでも傑作が作れたのだろう。
アメリカのフィルム・ノワールは、形式がきちんとしていて、主人公は自らに絶対の自信を持つ男。仕事も出来るし、度胸もある。ややプレイボーイというのも典型。そしてそんな男がか弱き女性の懇願によって、度胸試しのつもりで犯罪に荷担してしまう。しかし実はその女性はか弱いどころか、男の耳に毒を吹き込むためにいるような…これこそがファム・ファタール(運命の女)であり、その存在こそがフィルム・ノワールの醍醐味だとも言える。
…なんかデ・パルマっぽいけど、その形式を形作ったのが本作と言っても良い。ワイルダー監督の偉大さというのは、こんなところにも現れているだろう。実際当時のハリウッド・コードに引っかかっても不思議じゃない素材を選んだ事自体がチャレンジャー精神の表れとなっている。
そう言う意味ではフィルム・ノワールの教科書的作品と言えるのだが、その分、スタンウィックの巧さが光る。最初は気の弱そうな女性と思わせておいて、徐々に素顔を現していき、やがて共犯者になった時に、妖艶と言えるまでに変化する。そして最後のぎりぎりの緊張感での呆然とした表情も含め、本当に見事だ。彼女にとっても本作は出世作になったようだ。
それとこの作品では、男と女だけでなく、男同士の友情にも焦点が当てられているのも特徴だろう。実際マクマレイ演じるネフは自分の職場に戻る必要は無かった。それはロビンソン演じるキースがそこにいるからこそ、彼は戻ったとしか思えない。だから多分、ネフは、そのキースに見守られていることで、自分の人生が締めくくられることに満足していたのじゃないだろうか?全てに裏切られ、命も危なくなっている時に、最後に帰る所がある人は幸せだとも思う。
これは確かにフィルム・ノワールだけど、最後の最後にきちんとハード・ボイルドに持って行った脚本は見事だし、それをきちんと演じきったマクマレイも上手い。 …確かに私はコメディからワイルダー作品にはまったけど、『サンセット大通り』(1950)とか本作を観る限り、毒気全開の作品も素晴らしい。
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