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[コメント] 失われた週末(1945/米)

ちなみに病院のシーンは本当のアル中病棟を舞台としたそうだが、映画を観た病院側は二度とハリウッドに貸さないと決意したそうな…そりゃそうだろうな。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 アカデミーの男優賞や女優賞は精神の均衡を崩した役を演じたキャラクターに賞を与えることがよくある。いわゆるニューロティック映画(異常心理をテーマとする)は、アカデミーの好むところらしい。それも本作がその嚆矢と言えるだろう。元々(大根という悪評はあったものの)パラマウントの二枚目俳優だったミランドの崩れぶりはものすごい描写で、それまでのハリウッド映画の主人公の定型を一気に崩してしまった。以降のヒーローの描写に多大な影響を与えたと言う意味でも、本作も間違いなく映画史に残る一本であることは間違いなし。

 それがどれほど見たくない事であったとしても、精神そのものを描き出すことは物語の基本。こういった社会派ドラマは、よりストレートにその主題が出せるのが強みだな。

 実際、観ていて全く爽快感は全くなく、非常に鬱々とした内容だが(監督が監督だけに、その中で笑いを誘う部分を演出してるのはさすがだが)、何故そんな暗いテーマが好まれるか。それは誰の心にもある、負の部分。自分自身を振り返らせる部分をそのような映画がえぐってくるからだと思われる。  精神を病む描写とは、人にとって根元的な恐怖であり、自分にとって一番嫌な部分を見せつけられることだと思う。そう考えると、本作はサイコ・スリラーの走りでもあった訳だな。捻ったところは無くとも、やっぱり良作だと思う(ラストシーンに救いを持たせたのは、第2次世界大戦中という時代背景を顧慮すべきだろう)。

 本作は人の精神世界に入り込む描写が多々なされている(不安をかき立てるようなテルミンを用いた音楽の描写がとても効果的に用いられていた)。そのものズバリ悪夢のシーンもあるけど、病院のシーンなんかは下手な悪夢映画よりもっと悪夢っぽい演出がされていて、非常に興味深い。この時代でもここまで人の精神に入り込む映画が作られていたんだな…

 主人公のダンって、現代で言うところのパラサイト・シングルだろ?今の時代の方が、むしろ共感を持って見られるんじゃないかな?

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)Keita[*]

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