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[コメント] 沈まぬ太陽(2009/日)

結構胸に迫ってくるところもあるのですが、それを認めてしまうと、オッサン化した自分を再認識しそうで怖いです。だから点数は控えめにさせていただきました。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 なんと言うか、とてもテレビ的な作品。物語で言っても、挿入シーンが前提でメインストーリーが出来ているので、中断は当たり前。これでCMが入っても全く問題ないレベル。これだったら、いっそ一本の映画としてまとめるよりも、1クルー使ってテレビドラマにした方が良かったんじゃないか?と思える程度の演出力。挿入も前後のメインの物語との関連性が薄い。編集的にもっと色々遊べたはずなのに。勿体ない。

 演出という意味だと、更に言わせてもらえば、カメラがほとんど横からしか使われてないのもテレビっぽい。カメラワークに全然色気がないし、淡々と撮ってるだけに見える。画面のどこを観てもぐっと引き込まれるところが見当たらない。CGの使い方もひどく、特に飛行機が画面から完全に浮いてしまい、重量感を感じさせないのが難点。まがりなりにも航空会社が舞台なのだから、飛行機はもうちょっと気合入れて見せてほしかった(しかも事あるごとに出てくるので、安っぽさを増長させてるし)。さすがテレビ畑出身の若松監督だけのことはある。

 …と、色々難点は出ては来るのだが、しかし物語として悪いと言うわけじゃない。むしろ、この物語は胸に迫る説得力がある。これは原作がいいからに他ならないが、少なくとも、原作の良さを感じさせるだけの力を持った作品とは言える。

 こうなると、難点の第部分は逆転してくる。横からのカメラとバストショットの多用は、役者の存在感を最大限活かそうとした結果になるし、その分役者の演技力に負った作りとも言えるし、テレビ的な演出も、観慣れてる分素直に頭に入ってくる。

 物語としては、会社のために働く人間の悲哀と一言で言ってしまえばそれで終わりなのだが、会社のため、人のためと思って一生懸命働くと馬鹿を見る。かと言って会社を利用しようとすると、一時期は良いかもしれないが、どこかで必ずドスンと落ちて人生をダメにする。まあ当たり前と言えば当たり前で、身も蓋もない話とも言える訳だ。

 だけど、そう言った不器用な人間も、器用な人間も、人間的な魅力がある。それはどちらも、自分の進む道を決して諦めてないからではないだろうか。それは自分が選んだ道が間違っているとは思いたくない。と言う意地だろうし、どんな環境におかれても、最大限それを楽しもうという姿勢にあるだろう。どんな逆境に置かれても自分のなすべきことを行う。これは本当に馬鹿な生き方なのだが、自分自身の生き方に重ねて見てその馬鹿さ加減を愛おしく思えるようになって、初めて本作の良さが見えてくる。

 だから、実生活にあってそれなりに苦労し、色々理不尽な目に遭ってる場合、これが胸に迫ってくるとも言える。

 そしてこれは1980年代を舞台にしているからこそ可能な物語だろう。仮にもう少し時代が下ると、仕事よりも家族や愛の方が重要だ。と言う具合になるし、もっと効率よく仕事する人間を主人公とするだろう。2000年代になると、さっぱり仕事を辞めたは良いが、もはや仕事が出来なくなって悩むような主人公が主人公になっていくんじゃないかな?こう言ったモーレツ社員像はとても懐かしい描写だ。

 …こんな事を書いている時点で私自身が結構オッサン化してるような気分になった。何となく落ち着かない気分も感じる。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)ちわわ サイモン64[*] chokobo[*]

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