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[コメント] ワン・ツー・スリー ラブ・ハント作戦(1961/米)

東西冷戦を皮肉る作品としては最上の部類に入るでしょう。相変わらず見事です。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 ワイルダー監督作品に出演して一流の仲間入りをした役者も多いが、ワイルダーは決して役者の魅力に全てを負っているわけではない。ワイルダー監督の作品の数々は、キャラクターの魅力を最大限活かしつつ、いくつもの伏線をさらっとコメディで流して大いに笑わせてくれる作風で、物語としての完成度も非常に高いものばかり。特に脚本のダイアモンドと組んでのコメディは「見事!」と唸らせる作品が多いが、本作も又、よくこれだけごちゃごちゃとした物語を、綺麗にまとめたものだ。と思わせる芸術的な冴えを発揮している。

 特に本作の場合、東西に分かれてしまったベルリンという街の特異性と、政治をせせら笑うシニカル性を内在している。ベルリンの壁の抜け道とか、共産党礼賛者に東ドイツの腐敗ぶりを見せつける光景とか、当時にしてはかなり危ない笑いも多数登場。西であれ東であれ、結局理念では人は動かず、最終的に損得勘定で人は動く。これは「アパートの鍵貸します」で作られたパターンだが、それをコメディにしつつ、そこから一歩進ませることもきちんと行われている。大笑いさせていただいた。

 コカコーラという登録商法をそのまま映画に使うのはなんだか違和感があったが、ラストシーンで、空港にはペプシしかコーラがない。というオチにちゃんとまとめられてもいたし。セット撮影には見えないベルリンの描写も良い…と言うか、西と東で全く街の光景が変わるのも面白い。どんどん近代化され、高層ビルが建ち並び始めている西ベルリンを後にし、検問を過ぎてしまうと、今度は廃墟ばかり…ちょっとやり過ぎって気もするけど、これが当時の東西ドイツの実情だったのかもしれない。

 設定がしっかりしているためにギャグもきちんと地に足が付いていて、一体どうなるのか?という先の展開が全く分からないまま、落ち着くべきところにきちんと物語が落ち着いていく過程も見事。スクリューボールコメディの基本をきちんと抑えている。

 本作はキャグニーの実質的な引退作だったが、これまでキャグニーは唯一コメディの主演が無かったため、最後に。ということで出演を決定したらしい(実はかなりキャグニーは当時かなり病篤く、映画出演もきつかったらしく、その分登場時間を減らされたとのこと)。それでも、本当にこれが初めてか?と思われるくらいにコメディアンが板に付いていた。しっかりネタも仕込まれていて、オットー役のブッフホルツに「デザートはどうだ」とか言ってグレープフルーツを突きだして見せたり(キャグニーの出世作『民衆の敵』(1931)でクラークの顔にグレープフルーツを押しつけたのがキャグニーの人気の始まりだった)、思わず「これがリコの最後か」と呟くシーンとか(これもキャグニーの主演作『犯罪王リコ』より)など、自虐ともとれるギャグを連発。更にその風貌を活かし、会社では怒鳴り散らして社員を萎縮させておきながら、実際は気が小さく、家族からも呆れられているなんて役を上手い具合に演じてくれていた。

 これまたバランスの取れた見事な作品の一本と言えよう。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ペペロンチーノ[*]

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