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[コメント] グリーン・ゾーン(2010/米)

本来この作品は群像劇にして、様々な側面からのアプローチで真実にたどり着くと言う形でまとめるべきだったんでしょうね。それを全部一人に負わせてしまったため、話が分かりやすくなった側面はありますが…
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 本作はグリーングラス&デイモンの3本目の作品と言うこと、しかも現実のイラクが舞台と言う事で期待度が高い作品だった。

 それで結果を言えば、確かに期待通りの面白さは得られた作品だった。難しいテーマを使い、2時間を飽きさせることなく画面作りをしてくれている。

 本作の設定的な問題点と言えば、主人公のミラーが色々な個人や組織に引っ張られてしまうと言う点にあるだろう。ミラー自身が属するのは陸軍で、その上司もいるので軍内部の上下関係がきっちり存在しているが、それ以外にもCIAや国防総省、ジャーナリスト、それに現イラクを代表する住民としてのフレディとも関わりを持つ。彼らの思いがミラー一人にかかっていくため、その分彼の立場は複雑になっていくし、その中で自分自身で選択を強いられていく。

 ここまで色々なところから引っ張り合いが起こっている主人公の立場をまとめるのは大変難しいのだが(これと似た立場だと『ワールド・オブ・ライズ』(2008)があるけど、あの作品でもここまで多数の引っ張り合いはなかった)本作ではそれを難なくこなしているのが驚き。

 これを可能にしているのは、主人公であるミラーの機械的な透明さにあると思われる。ミラーは大量破壊兵器を探すというと言う以外の思いを持たず、それ故にテーマを絞り込むことが出来たのだろう。だからミラーは平気で組織を飛び出したり、他の組織のために働いたり、勝手に捜査を進めたりするし、そのために部下を危険に落とすこともためらわない。一切の恋愛感情もなければ、しがらみも持たない。はっきり言えば、これは人間というより機械のような存在だ。ボーン以上に人間味をカットしてる。

 でも、そうでもしないと本作はまとまらなかったんだろう。物語の流れを阻害しない主人公を作り出したのはとても面白い考え方だ。

 しかしながら、その一方、それは主人公に全く人間味を感じさせないと言う事でもある。無表情なデイモンだから出来る役には違いないけど、ここまで機械的にすると、全く個性がない。なんというか、シャーロック・ホームズ(後期の)をイラク戦争に放り込んだらこうなるだろうって感じの造形だった。

 本作が今ひとつ踏み込んで楽しめなかったのは、そこにあったんじゃないかな。面白い設定だし、造形ではあるが、個性のない主人公だと、共感が出来にくいし。  それと、オチ部分が黒幕の暗殺一つで終わるのも今更な感じ。一兵士が考えるには大きすぎる問題に平気で首突っ込むってことの説得力もないし。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)煽尼采 Orpheus リア[*] 3819695[*] 死ぬまでシネマ[*] セント[*]

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