[コメント] カラフル(2010/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
原監督作品アニメの面白いところとはなんだろうか?と本作鑑賞後に考えてみた。そうすると、ファミリー映画で最も基本的な部分をきちんと押さえている。と言う所にあるのではないかと考えられる。
それではファミリー映画で基本的というと、言うまでもなく“家族”であろう。特に映画作品だと監督作品はとにかく顕著にそれが表れている。実質的な劇場デビュー作となった『ドラミちゃん』作品であっても、この人が作る作品の場合、家族の描写にとても大きなウェイトがかかっているのが分かる。いやむしろ監督の場合、家族を描くことこそがその中心だと言っても良い。
その姿勢は本当に一貫してこれまで貫き通されており、そして今回もやっぱり家族が話の中心になっていた。設定だけを見る限り、本作は一度死んだ人間が、現世で修行し直すと言う内容なのだが、ここまで真っ正面から家族を描いて見せたのは、監督の本気度の表れとも見える。
そしてこれは私の趣味だが、“家族を作る”というテーマの作品は、見事なほどに私のツボであり、その意味でこれほどズドンとストレートに来てくれただけでも充分評価すべき。
そしてここでの家族の描き方は一風変わっている。
まず主人公の小林真は家族の一員であると共に、全くの他人でもある。これが面白い効果をもたらしてもいる。
通常“家族を作る”事をテーマにした作品には二つの形がある。
一つは崩壊しかかった元々の家族を再生していくというパターン。
一つは赤の他人が共同生活をしていくことによって、幾多の衝突を繰り返しながら、やがてかけがえのない家族へと成長していくというパターン。
本作の面白いところは、主人公が小林真であって小林真でない。と言う微妙な位置に置かれているため、そのどちらの設定も織り込んでいると言う事だろう。ラストで設定は収斂されるとは言え、主人公は、あくまで他人という目で、お互いに仮面をかぶり続けている家族を観ている側面と、小林真という個人として家族とぶつかっていかねばならない立場にある側面の両方を併せ持っている。「他人なのだから、この家がどうなっても関係ない」。主人公の真が度々口にするセリフ。ところが実際は家族を見ているだけで苛々するし、合わせることも出来ずに家族を傷つけるセリフや行動をつい取ってしまう苛つき。
この部分が本作をユニークなものにしていく。このファンタジックな設定の中に、誰もが持つ思春期特有の苛つきと反発が巧く織り込まされ、今生きている自分というものを問い直させる。これはつまり、観ている側の立場が劇中の小林真の立場と巧く噛み合っている事から来るものと言える。
観ている側は当然劇中の家族に対しては完全な他人としてしか観てない(土台これはアニメだから、実際に“人”ですらない)。しかし、心の中にあった負のノスタルジックを刺激され、もの凄く心の痛みを覚えてしまう。特に劇場で本作を観たならば、のめり込めばのめり込むほど、自分の中の痛さを感じていくことになる。
これは結局物語でありつつ、これを観ている同年代のこども達、あるいはかつて思春期を乗り越えた大人(あるいは今も尚その場に立ち止まっているオトナ)達を対象とし、その心に直接問いかける物語となっているのだ。
原監督が新作を作るに当たってこの作品を選んだ理由はそこにあったんじゃないかな?(うがった考えかも知れないけど)どんなに少なくとも、私にとってはそうとしか思えないし、だからこそ、本作の巧さというものを思わせてくれる。
それと、本作がアニメで作られてるってのは意味があるんじゃないかな?一流の監督が作るアニメは画面一つ一つに手作り感が溢れていて、その分一コマ一コマにも心がこもっているように見える。だからどんなつまらない、あるいは観るのが辛いシーンであっても、正面から観ずにはいられない気持ちにさせてくれる。
仮に本作が実写で行われていたとしたら、ダレ場や辛いシーンは目を向けずに通り過ぎてたかも知れないし、そもそもそんな感情さえ持たずにするっと観るだけになるかもしれない。それを許さないのが演出の力であり、それを最大限引き出せるのがアニメと言う素材なのだから。
その辛さを直視しているからこそ、それを乗り切ったところでカタルシスを感じ取れるのだから。
作り手としてアニメーションを本当によく理解しているからこそ出来たのが本作であり、だからこそ、原監督ははっきり一流のアニメ監督だと言う事が出来る。
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