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[コメント] 真空地帯(1952/日)

「戦線から遠のくと、楽観主義が現実にとって代わる。そして、最高意思決定の段階では、現実なるものはしばしば存在しない。戦争に負けているときは特にそうだ」
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 山本薩夫監督と言えば、イメージとして大作映画監督。という感じがあるが、反戦映画であれば結構色々な作品も作っていて、本作は独立系の北星映画で製作されたもの。予算的にもきつかったことが画面を観ていても分かり、戦争映画であるにもかかわらず戦闘シーンは全くなく、イジメのシーンも今ひとつ迫力が感じられず。画面もほとんどが暗いばかり。

 とはいえ、本作の設定自身は大変面白い。戦時中とは言っても、実際には前戦で戦っているのはほんの一握り。後方に行くに従い、戦争そのものよりも組織としての内部のごたごたの方が多くなっていく。そんな実に人間くさい抗争に巻き込まれてしまった不器用な男の話である。

 まさにこれは日本人として普遍的な組織の話である。事実これはちょっとだけ視点を変えてみると、現代の物語に置き換えることだって出来る。会社のお偉いさんの言うことを聞いていることが正しいことだ。と思っていたら、いつの間にか抜き差しならないところに来てしまった。こんなもの、現実世界にはいくらでもゴロゴロしてるんだし、最近特にテレビでよく見る会社の偽装事件で頭を下げている人の多くは、こういう人が大部分じゃないかとも思える。当時もそうだったんだろうけど、現代の目から観ても、リアリティは少しも損なわれていない。日本って国は本当に変わらないもんだと、呆れるほど。そう言う意味では、自らの身に置き換え、かなり“痛い”作品であることは確か。

 低予算のため演出はとてもちんまりした印象があるが、それを閉塞感にしてしまったのだから、演出も頑張ったとは言えるだろうか。

 ただ、その閉塞感が本作の肝のため、本作を観る場合、かなり気合いが必要であることは申し添えておこう。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)セント[*] 水那岐[*]

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