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[コメント] 浮雲(1955/日)

「それから王子様と王女様は幸せに暮らしましたとさ」…の後の話。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 林芙美子原作の同名小説の映画化。成瀬監督は好んで林芙美子の小説を映画化するが、それはだらしない夫と、それに愛想を付けられない女性という構図を監督自身がかなり好んでいたからだろう。特に林芙美子は自分の半生そのものが小説の素材のようなものだから、生々しさが違う。その中でも本作は監督の最高傑作とも言われ、まさに監督の真骨頂とも言える作品。

 本作はかなり面白い設定ではある。

 本作は男の側と女の側、どちらからでも観る事ができるが、根本的な点で、本作は「後の話」と言ってしまって良いだろうか。

 戦地ではあたかも英雄のように見え、異常なシチュエーションの元、恋は燃え上がる。しかし、その英雄の実態というものを生活の中で見せつけられた時、女はどのような反応を取ることになるのか。一般に言われるヒロイック・アクション、あるいは「それから王子様と王女様は幸せに暮らしましたとさ」のおとぎ話の“その後”が描かれる作品とも言えよう。

 一旦燃え上がったは良いが、燃えつきてしまった男ほど始末に負えないものもない。完璧な鬱状態の中、それでも何とかかつての情熱を燃やそうと努力して、それが無駄になって、又落ち込む。ネガティヴ・スパイラルに陥ってしまうから。こういう時の男は、誰か優しくしてくれるとそれにすがりたくなり、一方では現実を見ているから、それを拒絶したくもなる。常に自己嫌悪に陥りつつも、他者を傷つけずにはいられない。この思いはよく分かるんだ。

 一方、そんな男に惚れた女性は、不幸は不幸なのだが…その辺の複雑さを描くのが林芙美子作品の醍醐味という奴。

 まさに本作に描かれている男と女の関係はそれを端的に示した感じで、しかも当時の日本の置かれている脱力状態というのも相まって、凄い説得力を持ってしまう。

 こう考えてみると、本作は確かに凄い作品と言ってしまって良いのだが、それらは実際には「言わぬが花」ってやつで、こういう現実はなるだけなら見たくないもの。正直な話を言えば、本作はかなり私には見続けるのが苦痛だった。映画観て落ち込みたくないよ。

(評価:★3)

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