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[コメント] マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙(2011/英=仏)

本作がアカデミーの主演女優賞とメイクアップ賞を受賞したのは納得いく。そしてその二つ以外ノミネートさえされてないのも納得できる。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 既にアカデミーの常連であり、ノミネート数でだったら、世界一を誇る名女優メリル・ストリープに3つ目のオスカー(ノミネートはなんと17回目)をもたらした作品。ストリープはかなり好きな女優だし、歴史も好き。当然のごとくに観に行ってきた。

 全般的に言ってこの作品、映画としての作りは間違ってる。でもストリープに賞を取らせるためには必要十分な説得力を持った作品でもある。

 本作の間違った点。それは“鉄の女”を実は家庭的な一人の女性として描いてしまったことと言える。毀誉褒貶の激しい人物を、その業績を除いて家庭生活に特化させて描いてしまっては、折角の素材を活かすことができない。例えば本作ではフォークランド紛争における果断な決断を下すシーンがあるのだが、そこで“何のためにこの決断を下した”という部分が抜け落ち、単なるプライドを守るためにしか見せられてなかった。しかもそのことを死んだとは言え、夫の前で語らせるなど、少なくとも政治を主体に考えているのなら、やってはいけないこと。それを語らせずに、それでも意味があったことを演出で見せるくらいの気概が必要だったのではないか?そう言う部分を敢えて避けてしまい、単純に性差別の大きい国政の中、女性としてがんばってました。という部分だけクローズアップさせられても面白味に欠けるし、もったいないと思う。

 単純に言うなら、この作品にはメッセージ性が全く見られない。これだけ危険な題材を使う以上、観てる側に伝わるようなメッセージがほしい。本来出して然るべきものを排除しては欲求不満になってしまう。

 しかし一方ではストリープという女優を観るためと割り切ってしまうなら、本作は実にすばらしい作りでもある。ストリープはサッチャーを演じるに当たり、単に彼女の立ち居振る舞いを学んだだけではなく、ほとんど人前に姿を現さなくなった時代の老人を見事に演じきった。これ観てると、ストリープが本当に老人になってしまったとさえ感じてしまうほど。これまで持っている彼女のキャリアを全部ぶつけてくれたとさえ思うほど。特に幻覚を観て、軽く認知症を患っている演技なんかは名人芸的(アカデミーにはアル中や精神障害を負った人間を演じた人はオスカーを取りやすいというジンクスがあるが、今回もそれはしっかり受け継がれたようだ)。

 一個人の女性政治家の一生を描くという意味であれば本作は十分におもしろいのも事実。実際政治のことなどほとんど関心がない連れが「面白かった」と言ってるくらいだから。

 でも、それで終わらせるにはサッチャーという人物はユニークすぎたんだよな。そのユニークさを活かしきれなかった脚本には残念だ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)けにろん[*] ぐるぐる[*] chokobo[*]

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