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[コメント] ゴーン・ガール(2014/米)

一体エイミーはいつ崖っぷちで告白するんだ?と思ってしまう辺り、私も相当毒されている。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 本作のジャンルは一応監督が一番得意とするサスペンスとなるだろうが、これまでの作品と比べると抜きん出てリアルだ。2000年代に起こったアメリカの深刻な経済危機を背景にした夫婦間の危機なんて、ほとんど時事ネタに近い設定だし、愛情と性欲と打算の兼ね合いが非常にリアル。実際にこんな夫婦間の危機に陥ってる家族って、世界中にものすごい割合で存在するだろう。確かに映画的な見栄えとか、サスペンスにするために色んな所を極端に描いてはいるものの、結婚してそれなりに時間が経過したカップルからすれば、共感を得る部分がとても多い。リアルと虚構の兼ね合いがうまく、本作の最大のヒットの要因は、きっとそこにあるんじゃないかとも思える。更にメディアの偏向と、世論の恐ろしさもある。日本でもそうだが、一旦「こいつは社会の敵」とされてしまうと、誰もがこぞってその人物を叩く。特にネット社会となった現在は、匿名でいくらでも人を叩ける。  仮にこの作品を夫婦で一緒に観たなら、つい隣を気にしてしまうような。そんなリアルさが売りだ。夫婦間のリアルさだけを強調したら、ここまでの作品にはなりえなかっただろうし。

 で、肝心の物語だが、一言で言ってしまえば「面白い」とは言えるし、サスペンス調の前半と、精神的な憎悪を喚起する後半の兼ね合いもうまく出来てはいる。謎解きそのものは結構早いうちに決着がついてしまうが、それはそれで新鮮な感じだ。結局妻の完全勝利に終わるという、男にとっては救われない物語展開も結構楽しい。

 ただ、観てる間は全く気にしてなかったのだが、今にして考えると、前半と後半の物語のつなぎ方に難点があったかもしれない。

 例えば前半でクローズアップされた不自然な誘拐方法やエイミーが敢えて残したプレゼントの意味合いが結局何にも活かされないままだし、前半でタイムラインによってコロコロとニックに対する態度を変えるエイミーの両親の存在が後半全然出てこないとか。伏線と思われる部分が全然伏線になってないものが多く、ちょっと消化不良。そんな意味で前半と後半では全く別物として捉える必要があるのかもしれない。観ている間は全く気にならないのだから、それはそれで良いのかもしれないけど。

 …と言う所で終わらせても良いのだが、もう少し考えてみたい。

 アフレック演じるニックは、見た目通りの単純な男と切り捨ててしまって構わないのだが(アフレックだけに、もっと複雑な過去があるのかとおもいきや、こんな役だったので逆に驚いた)、エイミーはかなり複雑な存在である。

 彼女の少女時代は、両親の描く絵本「アメイジング・エイミー」によって支配されていた。彼女自身の本性がどうあれ、描かれた絵本のエイミーは自分の分身であり、だからそこを基準として生きていかねばならない。これは子どもにとってはものすごいストレスとなる。実際にニックに向かって「私はそんな子じゃなかったのに」と愚痴を言ってるシーンもあるのだが、しかしながら、そのストレスに晒されながら、普通に大学に行き、ジャーナリストにもなってる。親に対してさほど反発しているようにも見えない。普通の女性のように見える訳だが、それって凄いことじゃないだろうか。

 普通こう言う人生を生きている人って、人生がもの凄く歪む。いわば自分の役柄がわかっていながら『トゥルーマン・ショー』(1998)を演じているようなものだから。ところが、それをほとんど感じさせない。結婚生活を始めるにあたり、ニックはそこに歪みがあることを全く考えずに結婚しているわけだが、実際は、心の奥にどれだけのものを溜め込んでいたか。本作はそれを少しずつ暴いていく、サイコスリラーとして見ることも出来る。

 物語で明らかになるのは、過去彼女が付き合った男性が、彼女によって人生を無茶苦茶にされたということと、自分の都合で過去付き合っていた男性を振り回し、自分の都合だけでその命を奪ってしまったということ。

 これは言うなれば、エイミーは完全な精神分裂病。しかも破滅型の。なまじ頭がいいだけに、そこで生じた歪みは、自分の憎む相手を完膚なきまでに叩き潰さずにはいられない。

 それが夫に向けられた時…

 相手を陥れるための時間はいくらでも取れた。それを想像で終わらせることなく実行に移すことも。これによって人間としての尊厳を剥ぎとった上で社会的に抹殺させることも出来る。

 彼女にとって、ニックの浮気とかはその動機にならなかったんじゃないかな?勿論大きな機会ではあっただろうけど、一番問題だったのは自分が蔑ろにされたということ。自分が望むものを相手が与えてくれないこと。そんなことだけで相手を殺すことも出来てしまう。これは明らかなサイコパスだ。

 そう考えるならば、本作は単なるサスペンスではなくサイコ・サスペンス。もっと言うならば、ホラーに近い作品なんじゃないだろうか。そう考えてみると、本作はぐっと面白くなる。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)プロキオン14[*]

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