コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟(2014/日)

インターステラー』が公開されたが、ほとんど同じ時に、日本のアニメでもこんなSFが作られたことはとても嬉しいことだ。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 かつてSFファンの心をガッチリと掴み、以降の日本アニメブームの先駆けとなった「宇宙戦艦ヤマト」。何作もの続編が作られ、様々なメディアで使用されて、既に手垢がついてしまった感があるが、「宇宙戦艦ヤマト2199」テレビ本編は意外な好作だった。旧作のテイストをちゃんと残しつつ、現代の視聴者が必要としている要素をふんだんに取り入れたバランスの良い演出と、王道でありつつ意外性もきちんと考えられた物語展開が楽しく、良い意味で裏切られ、監督の力量を再認識させられた。

 その完全新作とのこと。今度は期待感をもって見させていただいた。

 まずこの作品は、続編ではなく、先の旅の中の一エピソードで、外伝的な立ち位置にある。時間軸としては、デスラーが死に、ガミラスと地球は休戦協定を結んだ後。イスカンダルから供与されたコスモリバースシステムを地球に持ち帰ろうと帰還途中となる。まだ地球に着いていないために沖田艦長は未だ健在で、何の心配もなくあとは帰るだけという期間にあたり、本編では端折られた旅の部分に物語を持ってきた。

 そして外伝としての本作を評価してみるならば、うまい具合に作られた作品ではある。作品自体が小競り合い程度の戦いで大上段に構えてない分、細かい設定をちゃんと拾ってるし、本編との整合性もきちんとしてる。その上でTV版でちょっと取り残した部分を補完して、しっかり「ヤマト」の魅力を伝えている部分が良い。

 「ヤマト」の魅力。それはいくつも説明はつくけど、その大きな魅力は、本作が“SFである”という点だろう。緻密な設定と細部へのこだわりはSFには必要だけど、そこに荒唐無稽な大風呂敷を広げてくれることが大切。言い方は悪いけど、バカバカしい物語を大真面目にやることこそがSFの魅力であり、それをしっかりやってくれたことが「ヤマト」の魅力ではないかと思う。

 そう考えれば、数多く作られてきた続編やリメイクに魅力が感じられないのも頷ける。これらは第一作の「宇宙戦艦ヤマト」を目標にしており、手を変え品を変え、同じ物語を作っているのに過ぎないから。これらの作品は全部フォーマットは同じ。謎の敵によって地球が狙われ、老朽艦として引退してる筈のヤマトに乗り込んで、謎の敵の究明と敵本星の破壊で幕を閉じる。ここにはSFマインドが入り込む余地がなく、観ている側としてもそれらが全部分かってしまうので、本来のSFを忘れてしまってた。

 リメイク版「2199」もその轍を踏んではいるのだが、少なくともスタッフの側に「これはヤマトをベースにしたSFである」との認識はしっかりしていたようで、色んな所で遊びが見られ、そしてその遊びの部分を大真面目にやってくれている。その部分がとても心地良かった。

 そしてそのフォーマットからも離れた本作では、本編の設定を下敷きに、より荒唐無稽で、よりこだわりの強い物語を構築した。

 宇宙での航海の中で突然現れる地球と同じ惑星。そこで展開される観念的な物語。相いれぬ立場の敵同士の友情など、よく詰め込んだと感心できる物語展開である。しかもスタッフが本作を外伝的な位置付けであることをよくわかった上で作ってるものだから、細かい設定やこだわりが心地よい(舞台となる惑星の名前がシャンブロウ!これだけで人によって勝手にいろんな妄想をかきたてられる)。物語として特段優れた部分はないけど、なんだかとっても良い空間にいさせてもらった!と思えるような素敵な物語だった。

 そしてこの作品、外伝的な味付けとして、「ヤマト」だけでなく「銀河鉄道999」も参考にしてるようでもある。途中立ち寄った惑星で、タイムリミットの間に主人公たちが活躍し、惑星を救うなり滅ぼすなりしてるフォーマットは、まさしく「999」。こう言う外伝であればいくつも作ることが出来るだろう。「ヤマト」作るんだったら、別段地球の危機を絡めなくてもちゃんと物語は作れるということを証明出来たし、まだまだ「ヤマト」は終わらない。そう思わせてくれただけで充分。

 少なくとも、これまで観てきた映画版『ヤマト』では最上の作品と言っておこう。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。