[コメント] ビッグ・アイズ(2014/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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とりあえず題材は面白いと思う。バートンはこれまでも『エド・ウッド』という、古い時代の痛快な人物を描いた作品を作っており、これまで観たどんな伝記作品よりも面白かったし、監督が本当に好きな人物をとことん掘り下げて描いてみせる姿勢はすばらしいと思う。アート界に旋風をもたらし、庶民の手の届く芸術を確立した重要な時期を描いてもいるし、男女間の格差の是正を世界に求める“進んだ”アメリカでも、わずか半世紀前まで男性上位のこんな時代があったという歴史の検証にもなってる。
そんな意味で、大枠においてはこの作品はかなり堅実な作品のはずなんだが…
バートン作品は昔から合う作品と合わない作品があって、合う作品は無茶苦茶ぴったり合うんだが、合わないのはとことん合わない。そのため、評価が一定しないものなのだが、本作は完全に“合わない”方だった。
大監督に向かってこういうことを言うのもなんだが、全般的に演出が悪すぎる。本来面白くなるはずの作品を演出で貶めてしまったとしか言いようがない。
色んな意味で本作には歯がゆい演出が目立つ。
いくつか例を挙げれば、ヴァルツ演じるウォルターがあまりに小悪党っぽすぎるとか、最後の裁判シーンでなんら逆転劇がなかったとか、マーガレットの神秘主義への傾倒が物語上全く意味をなしてないとか、余計な枝道が目立つ上に、肝心な部分の描写がおざなりなもので終わってしまってる。
何より一番の問題は、マーガレットがウォルターに強要されて絵を描き続け、それを自分の作品とは言えなかったという部分に説得力がないと言うのが致命的。50〜60年代の価値観では、まだ妻は夫に従うものという価値観が強かったのかもしれないが、だったらその部分でのストーリーの補強が重要なはず。観ている側は新世紀の価値観で画面を観ているので、そこで説得力を持たせないと、ひたすら夫に仕えるだけのマーガレットの行動に納得いかないし、やってることが歯がゆいばかりになってしまう。
見終わってから演出をどうこう言うのも何だが、本作で求められていたのは、事実を淡々と並べるだけで終わる作品ではなく、バートンらしい演出で、事実をどう料理するか?だったはず。そしてバートンらしさとは、これは結局神秘的な部分ではなかったのかな?本作でもマーガレットの目には世界が普通とはちょっと違ったものに見えているという演出がちょっとだけ使われていたけど、これを全編にわたってスパイスのように使っていれば、だいぶ印象が変わったんじゃないかな?
やっぱり演出で損してるよなあ。
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