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[コメント] スター・ウォーズ フォースの覚醒(2015/米)

こんなちゃんとした作品を作るなんて、JJはトレッキーの風上にも置けん奴だ。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 本作を称するに何を当てるか。

 多分それはかつてキューブリックの『シャイニング』(1980)に対し原作者のスティーヴン・キングが称した言葉に尽きるだろう。即ち「エンジンの積んでないスポーツカー」である。

 本作は非常に優れた作品であることは認める。見応えもたっぷり。だが、肝心の魂を置き忘れた作品と言ってしまって良い。

 いや、これは決して悪口というわけではない。創造者であるルーカスが物語自体には関わっていないこともあって、敢えて物語に画期的な変更は加えず、『スター・ウォーズ ジェダイの復讐』(1983)のまっとうな続編として、きちんとまとまっているのだ。  ただ、それがまっとうすぎて、ひっかかるものがほとんどない。これまでの物語を否定する部分は全く無く、その為に驚きもない。凄く安心して観られるし、演出の巧さもあって、これまでのどの作品よりも映画単体としては巧くできている。ただしゴツゴツした部分がなくて、するっと観終わってしまったと言う感じである。

 だから、映画単体としての作品としては最高レベル。ただしスター・ウォーズ・サーガの一編とするならば、力量不足。本作で本当に作るべきだったのは、単なる続編ではなく、新しいスター・ウォーズ・サーガの構築であったはずである。そして出来たのは、本当に単なる続編だった。

 これはおそらく監督のエイブラムスの資質にあるのではなかっただろうか?

 この人が作った『スター・トレック』は、無茶苦茶な作品だったのだが、凄く楽しかった。それは監督が重度のトレッキーであるということが分かったから。あの作品を作るに至るまで、頭の中で様々なシーンを散々こねくり回して、自分なりの解釈も加えて作り上げた作品だったのだろう。どんだけスタトレ好きなんだよ。と実感できる出来だった。あの作品を観てるだけで「ああ、この人、本当にスタートレック好きなんだな」と思い、「この作品作れて良かったね」と祝福する気持ちにさせられたものだ。

 ところで、スター・ウォーズファンとスター・トレックファンは重なる部分もあるが、時に激しい対立を引き起こすこともある。映画『ファンボーイズ』(2008)に戯画化されてそれは描かれているが、こじらせたファンにとっては、互いの作品の名前を聞くだけで拒否反応を起こしてしまうものだ。

 そして明らかにトレッキーな監督が今度はスター・ウォーズの監督をする?大丈夫かいな?という思いもあったものだ。

 そして本作を観て分かったこと。

 エイブラムス監督は最高の製作者だということである。

 この人、かなりこじらせたトレッキーであり、スター・ウォーズについてはさほどの思い入れはない。思い入れはないからこそ、オリジナルの解釈は入れることなく、物語に集中して楽しい作品を作ろうと志向したのだ。お陰でもの凄い完成度の高さだが、同時に思い入れの感じられない、いかにも雇われ作品が完成した(監督の思い入れが感じられたのは、ハン・ソロの船の出来事で、あの切羽詰まった時の起死回生の描写はほぼTV版「スター・トレック」のエピソードそのまんま。そこだけはこだわったと思える)。  そしてそれこそが製作会社であるディズニーが求めた事であり、エイブラムスはその期待に100%応えて見せた。最高の編集術と演出力を、駆使し、見応えとドキドキワクワク感をふんだんに使って、最高の演出で、ファンに納得できる解釈を作り上げたのだ。

 そして最高の潔さと思ったのは、ほとんど全ての謎を「続編に続く」としてみせたことである。

 いくつかの伏線を蒔いて見せたものの(そもそも主人公のレンがどんな系譜の人だか、断片的にしか描いてない)、それらの回収は続編以降。これによってエイブラムスは自分自身に対する批判は防いでクリエイターとして傷つかずに済んだし、興行的な意味での賞賛は全て自分のものにする事が出来た。

 完全にエイブラムスの勝利の構図の作品である。自分自身のフィルモグラフィに一切の傷を付けず、監督としての名声だけを手に入れた。まさしくJJの計算通り。そんな意味においても本作は本当に見事な作品と言える。

(評価:★4)

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