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[コメント] 鰯雲(1958/日)

成瀬監督作品では珍しい開放的な出来。戸外撮影とカラー描写でこんなに違って見えるとは。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 成瀬監督は本来都会での人間関係を描くことを得意とするが、そんな成瀬監督がここで描いたのは当時の農村の風景だった。結構意外だが、これがうまくはまってる。テーマは決して軽くなく、むしろ日本の農村の行く末が明るくないという事実をしっかり見据えて描いているのだが、そこらかしこに見受けられるユーモアと、頑迷な老人も突っ走る若者も等しく温かく見守る目が感じられ、割とほっとする感じもある。それにドキュメンタリーではないにせよ、この時代の農村がどれだけ揺れているのかというのも物語を通してしっかりと描かれているので、資料的な意味でも結構重要な意味合いを持つ作品。私がこどもの頃の実家もこんな感じのところが実際にあって、ちょっと懐かしさも感じたりしたし。

 だから、本作は成瀬監督作品にしては異色作とも言えるのだが、総合して考えると、本作はいろんな意味で監督の挑戦作だったからとも言えるだろう。

 実は本作は成瀬監督にとっては初のカラー挑戦作であり、それで明るさを表現するために、都会ではなく田舎を舞台とした。更に野外のシーンが多く、それが色彩と相まって、非常に開放的な印象を与えてくれる。成瀬作品の大部分は都会で、しかもかなりごみごみした路地裏とか狭い家を舞台とすることが多いのとは真逆のベクトルだったのが功を奏したのだろう。

 更に成瀬監督が作ると、本来もっとべたべたしたものである農家の人間関係が都会の人間よりもあっさりしたものになってしまうのも面白いところ。やっぱり成瀬監督は都会育ちであることをかえってよく示した作品になってた気がする。その分描写もおっかなびっくりと言った感じだから、いつもの感情に切り込むソリッドさが抜けてしまい、それが逆に温かい目で観られるようにしているのかもしれない。

 人物描写は相変わらず上手さを見せてくれるのだが、淡島千景を農家の女性にしてしまったというのは、ちょっと無理があった気もそこはか。この人の上品さは到底昔から農家に嫁いでます。という雰囲気じゃないし、もんぺの着こなし方も今ひとつはまって見えない。まあ、そのギャップが逆に色気を増してるのも事実なんだが。

(評価:★3)

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