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[コメント] ヘイトフル・エイト(2015/米)

監督の醸し出す偽悪っぷりがどうにも合わない。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 タランティーノと言えば、前作『ジャンゴ 繋がれざる者』のレビュー時、「毎回ジャンルを変えている」と書いていたが、『ジャンゴ』の次回作がまた西部劇と聞き及び、意外な印象を受けた。シネフィル監督としていろんなジャンルを渡り歩く姿を今回も見せてくれると期待してたため、軽く裏切られた印象があった。

 そんなに西部劇気に入ったのかな?と言う気分で劇場に足を運んだら、なるほど確かにこれは納得。これは素材こそ西部劇ではあるが、むしろ西部の時代に題材を取った密室劇に仕上げた訳か。今度はヒッチコックばりの密室内での推理と駆け引きを主題にした物語を作ったということ。

 基本路線は緊張感を途切れさせることなく、いろんな推測や憶測から互いを傷つけ合いつつ、その中で徐々に死体が増えていく。銃撃シーンの演出も上手く、基本路線としてはもの凄く巧みに作られた作品と言って良い。3時間という長丁場も全く気にならないほどだから、演出に関しては本当に素晴らしい出来だ。

 ただ、本作が申し分ない作品かと言われたら、とてもそうは言えない。

 とりあえず私限定で語らせていただくが、本作に関しては二つの点で受け入れられないものがある。

 まず一点目。タイトルが“The Hateful Eight”であるにも関わらず、登場人物が8人で終わらないと言う事。小屋に閉じ込められたのは9人だし、後半もう一人増えるから10人。何で8人?タイトルそのものを例えば物語のミスリードさせるために使うとか、終わった時「ああ確かに8人だった」と思わせるならともかく、最初から人数が違っていて、しかもその整合性がないまま終わるため、非常に後味が悪い(無理矢理言うなら、この事件に関わってないのが二人いると言えなくも無いが、それだとしても数が中途半端だ)。それに途中で、密室もので、「これをやったらまずいだろ」的なことをやってしまったので、種明かしも何も全部放り投げたようなものになってしまう。もうちょっと緻密に物語構成考えてほしいところだ。

 …ただ、これに関しては、私の理解力不足ということもあり得るので、この発言自体が的外れの可能性があるのでこれ以上は言わない。一応ペンディング。

 もう一点が、『ジャンゴ 繋がれざる者』の時も感じたことなのだが、逆転したレイシズムがなんかとても居心地が悪いと言う事。差別を受けた側が、特定個人ではなく、人種そのものに対して復讐を行うという構図がどうにも居心地悪い。これ正義の鉄槌を下してるんじゃなくて、純粋に人を殺したいから殺してて、その後付でレイシズムに対抗するような事を言わせてるような気になってしまい、その辺がどうにもすっきりしない。

 一言で言ってしまうと、「下品」。

 タランティーノ作品に品を求める事自体間違っているのだろうけど、ちゃんと作れるのに、敢えて品を落として作るその姿勢が落ち着かなくさせてしまう。

(評価:★3)

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