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[コメント] デッドプール(2016/米)

良くも悪くも「安っぽい」というのが一番の感想かも。それが本作には合ってるし、気に入ってる部分だけど。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 数多くのヒーローを擁するマーベルだが、その中でも特に変わった存在がある。弱いものを守るとか、人のために働くとか全く考える事が一切無く、単に自分の好き嫌いだけで暴力を振るうというヒーローである。自分の欲望に忠実という意味ではヴィランと同じのだが、基本的に欲望が薄くて小市民的な幸せばかり求めるため、大きな悪事ができず、それどころかやってることがずれてしまい、結果的に正義のために働くことが多いという異端的な正義の味方デッドプールである。

 このヒーローではない不死身の強者をこれまでにも何度か映画化しようとする試みはあった。一番それに近づいたのは、『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』(2009)の時で、この時はウルヴァリン最強のライバルとしてデッドプールが登場していて(しかも演じるは本作と同じくライアン・レイノルズ)、そこでスピンオフが作られようとしていた。ただこれは上手くいかず、あぶれたレイノルズはその後『グリーン・ランタン』(2011)とかにも出演してたが、正直今ひとつな感じ。

 そんな「今ひとつ」な感じではあったのだが、デッドプールをなんとか単独で。という思いがやっと実ったのが本作となる。

 本作の特徴をいくつか挙げてみよう。

 第一に、『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』と時空系列が全く異なると言う事。  あの作品では、デッドプールは何人ものミュータントの能力を無理矢理付与されたということで、瞬間移動は出来るわ、両手から日本刀を出せるわ、首がもげても復活するわで、敵役としては最適かもしれないが、主人公としてはちょっと強すぎるキャラに仕上がっているし、性格も純粋に人殺しを楽しんでるようなところがあったりと、確かにかなり違った造形のキャラになってた。何よりその姿が上半身裸のライアン・レイノルズそのものなので、トレードマークの赤いスーツから離れてる。

 改めて考えると、この姿のままスピンオフされてしまったら、全く原作とは別物になってしまっただろうし、これを映画にしたら単なる悪人になってしまうし、何よりコミカルさが身上の原作ファンからは流石にブーイングだろう。

 それで原作準拠にした全く別なキャラだから、本作は上手くいった。何よりデッドプールはあの赤いコスチュームだからこそ良いのだ。

 第二に、本作はとてもアダルティと言う事。

 セックスシーンが多いだけで無く、台詞にも一々下ネタ仕込んでくるし、愛すると言う事も全然プラトニックでは無い。肉体的な結びつき合ってこそ愛だ!ってのを全編を通して主張しているかのよう。

 基本的にヒーローは性を殊更持ち出すことは無いし、愛する人がいるなら、その人にだけ心を捧げるという純愛キャラばかり。ヒーロー作品を観る年齢層が低いためにそうなってしまうのだが、その辺の自主規制を軽々と飛び越えてしまってる。

 そのためにレーティングに引っかかってしまったが、こういうアダルティなスーパーヒーローはこれまでいなかったから、とても新鮮に思える。

 第三に、デッドプールのトークが冴え渡ってるということ。

 原作でもこのキャラやたら喋りまくっているのだが、これが普通のおしゃべりとは違う。デッドプールの場合、喋るのに相手は必要ない。勿論相手がいても喋りまくるが、いなくてもお構いなしに喋り続ける。それもモノローグとか独り言では無く、語りかけるという形で。

 これは舞台用語で「第四の壁を破る」という奴。舞台は背後、左右の三方向に壁があるが、もう一つ客席に向かっても壁があるものとして役者は演じるのだが、敢えて観客に向かって語りかけることで、その壁を破るという演出がある。映画の中でも舞台劇を取り入れた作品では結構あって、それも一ジャンルになってるほどだが(日本では寺山修司の『書を捨てよ町へ出よう』(1971)が有名だが、探してみると結構多い)、これを敢えてやってみせることによって、切れ目のないトークが続けられる。実際にデッドプールの台詞の中で「第四の壁ならぬ十六の壁?」などと観客に語りかけるシーンまで有り。

 そのトークも下品なことばの羅列だけでなく、過去を振り返って喋ると、ちゃんと画面が過去に戻るとかの、映画ならではの演出もきちんと作られている。

 第四に、暴力的なこと。

 ヴァイオレンスの度合いも他のヒーローものと較べるととても過激になってる。走ってる車から放り投げた人間が看板に当たってべちゃっと潰れるシーンとか結構グロテスクな描写もあってモザイクものの演出が多いだけでなく、デッドプールが鼻歌歌いながら人を斬り殺しまくるとか、およそヒーローらしからぬ行いも常識外れ。ここら辺がデッドプールが悪人っぽいところで、これは絶対に外せない部分。この描写が無ければデッドプールでは無くなる為、レーティングはやむなし。

 第五に、小ネタに凝ること。

 本作は最初から小ネタ満載。オープニングシーンでは飛び散った財布の中身にグリーン・ランタンの写真が何故か入っていたり、ウェイドが「俺の宝物」と言っているものの中に『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』(2009)で登場したデッドプールのフィギュアがあったり、ヴァネッサと一緒のシーンではシーンに合わせ、それ用に次々に音楽が切り替わるとかデッドプールの軽口の中にアブナイネタを仕込んでいたり。

 これらの軽口こそがデッドプールらしさであり、それらを観るために何度も作品を観たくなる。

 これらを加味した結果、どう転んでもこどもに見せられるようなものには仕上がらなかった。そしてその割り切り方が本作の最大の魅力となったわけだ。

 その割り切りを賞賛する人は本作を最大に評価するだろうし、逆に「こんなのヒーローじゃない」と言う人はこの作品をこき下ろすことだろう。

 ちなみに私の場合、ほとんど何も感じなかった。観てる間は楽しかったけど、手放しで賞賛する気もないし、けなす気もない。やっぱり直前に『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』(2016)という正統的なヒーロー作品の傑作を観てしまったためだろうな。 

(評価:★3)

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