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[コメント] 日本で一番悪い奴ら(2016/日)

久々の実録犯罪もの。楽しませてもらった一方、やっぱり時代は代わってるんだという一抹の寂しさも。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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 最近になってこの手の「これぞ裏社会」と言った感じの作品は少なくなっていて、そう言う成分が時折ほしいと思っていた折もあって、とても楽しませていただいた。同じく実際の事件を扱った前作『凶悪』と言い、白石監督の攻めの姿勢には頭が下がる。

 邦画界では過去にも仁義なき戦いシリーズを代表とするいわゆる「実録もの」という形で実際の事件を扱った映画が何作もある。その中で印象深いのは『県警対組織暴力』(1975)だろう。「仁義」と「正義」の目から見た暴力団と警察のずぶずぶの関係を描いた作品だが、まさしくこれが本作と内容的にもかぶる、なかなかの好作だった。

 一応それと較べる形で本作を考察してみよう。

 まず何より演出力の違い。70年代に作られた作品と現代の作品とでは、臨場感が違う。どちらが臨場感合ったかと言えば、昔の作品の方が段違いに高い。何といっても生々しさが違う。確かに映像的なリアリティは低く、飛び散る血しぶきがどれだけ墨汁っぽかったとしても、それを演じる役者がみんなギラギラしていて凄く生々しい。対して本作は映像的にはとても優れているし、主演の綾野剛の体当たり演技もあるが、全般的に洗練されすぎてリアリティが逆に薄く感じられてしまう。全般的にお上品にまとまってしまったという印象は受ける。

 対して事件そのものに対するリアリティという点に関しては本作に軍配が上がるだろう。ドラマ性を高めるために「仁義」なり「兄弟」などを出さずに全て打算によって成り立っているため、それがとても真実味ある。それに警察内部の組織ぐるみの腐敗が実に縦割り型で、いかにも日本の出来事と思わせてくれるのもリアリティあるし、麻薬に溺れる主人公が、ひたすら水ばかり飲むとかのシーンもかなりリアル。

 緊張感のある画面作りもあって、じっくり作り込まれた演出力を感じさせることから、本作は古い実録ものの作品とは別物として考える必要はあるが、リアルな暴力作品として評価されて然りの作品だろう。今こう言う作品はなかなか作られないため、とても新鮮味がある。

(評価:★3)

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