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[コメント] 君の名は。(2016/日)

公開前は「なんて派手な自殺方法なんだろう」とか思ってたけど、最高傑作が出来てしまった。(レビューは感想では無く考察です)
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 まず本作はこの世界とは異なるパラレルワールド的な位置にある。それだけでなく、この世界とは物理法則がちょっと違ってもいる世界である。言うまでもなく、現実にはあんな彗星がやってきたという事実はないし、あんな軌道を持つ彗星はあり得ない。空気感も現実より随分ねっとりしている。正直、これだけゆったりした時間が流れるのは不思議そのもの。

 それで何故そんな物理法則が変化する世界なのか。

 それはおそらくこの世界は神話の世界と地続きだからである。誰も意識してないが、土着の神の力が現実に力を及ぼす世界。だからその作用分物理法則が違っていると解釈しよう。

 で、その神話の神様が一体何をするのか。と言えば、おそらくそれは神同士の逢瀬なのだろう。人間と違って天文単位で考えるから、随分間が空いてしまうが、定期的に空から一柱の神がおり、地上にいる神と交わる。それをずっと繰り返してきたのだろう。だからこそ三葉の村には、少なく見てこれまで二度の(湖と祠のあるクレーター状の台地)。そして今回三度目の神がやってきている。だから、本作は、神同士の逢瀬を背景としていると考えられる。

 ただ一方、神同士が結ばれる時は、神にとっては喜びの時かも知れないが、近くにいる人間にとっては悲惨な出来事になってしまう。「象が争う時、傷つくのは足下の草」とはインドの格言だそうだが、同じように象が愛し合うと、同じように足下の草も傷ついてしまう。千年ぶりの逢瀬は、人間はえらい被害を被ることになる。

 それでも神にも人情(?)ってものがあるのだろう。自分達のお陰でとんでもない事になってしまったため、そのフォローをしないといけないと感じ、メッセージを送る。

 ここで重要になるのが三葉の家が代々女系の神主をしているという点。彼女たちが何故そこにいなければならないのか。それは神が過去に置いておいたサイレンのようなもの。逢瀬が近づくと、彼女たちにシグナルを送り、その電波を受信した巫女が村に警告を発する。

 その方法というか、シグナルが精神交換という形に表れるのだろう。もしこのようなことが起こったら、危険の前触れであると代々宮水家には伝えられてきたのだろう。精神交換が時を越えて行われたというのは、「このままでは未来はこうなりますよ」と言う事を告げるためであったのだから。

 ところが何代か前にそれが途切れた。秘伝として伝えられてきたことが火事によって消え去ってしまったから。だから三葉はそれを警告として受け取ることが出来なかった。

 実際に警告が無視されたらどうなるのか。それがまず示される。これは実際の出来事として起こったことなのだろう。だがもう一度神によって猶予が与えられたことで、その警告の意味を理解した三葉は、周囲の人々の力を借りて危機を回避することが出来た。

 で、結果として正確に電波を受信した三葉により、村は助かる。三葉は巫女としての役目を果たすことが出来た。

 だが、神のアフターフォローはちゃんとしていたようだ。いや、アフターフォローというか、二人の想いの執念というべきかもしれないけど、ラストシーンで二人は出会う。

 このシーンによって、千年ぶりの神々の逢瀬と、現実の二人の男女の出会いは合致するのだ。

 引き離された二人が、幾多の困難によって再び出会う。神同士の出会い、そして時間を超えた二人の男女の「君の名は。」と語るまでの。これは神話をなぞる七夕のような物語なのだ。

(評価:★4)

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