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[コメント] 三度目の殺人(2017/日)

是枝監督は全くぶれない。それを実感できたことが本作の一番の面白さだったかも。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 思いもしなかった良作。

 初のサスペンスとは言っても監督のテーマである家族の問題へとちゃんと落とし込んでいるし、崩壊する家族と再生する家族が複雑に絡み合う構造は、これまでの作風の延長でありながら、しっかり進歩している。一体監督はどこまでこのテーマを自在に扱ってくれるのかと感心する一方で、ますますこれからの期待が高まる作品でもあった。

 本作の良さというのを改めて考えてみたい。

 まず三隅の言動が一致しないということ。あまりに真剣に語るため、これが本当か?と思われたら、その後あっけなく前言を否定したりして弁護士を煙に巻く。死刑になるか否か、自分の命がかかっているのに敢えて死刑になろうとしてるかのような心証を悪くするような真似をするのか?

 弁護士の重盛はそれを掘り下げていく事になり、観てる側はその過程を楽しむ作品となる。これはかつて『砂の器』(1974)や『人間の証明』(1977)など松本清張や森村誠一らが得意とした実直に証言を重ねる事で真実に近づこうという推理小説の定式に則っている。

 実直さだけが取り柄というこの作風は現在では廃れたけど、逆に今の時代にこれをやるのは新鮮でもある。

 更に映画的要素の面白さとして、捜査を進めるに当たり、捜査をしている本人の過去が描かれていくというのも良し。先に挙げた2本も又、そう言う捜査するキャラの魅力を掘り下げたことで映画史に残る作品に仕上げられてもいるので、ちゃんとその辺踏襲してることが分かる。

 だからその古さが一つの魅力となっているのは確かである。

 だが、それだけではまだ本作の魅力は借り物でしかない。

 もう一つの面白さは黒澤明の『羅生門』(1950)同様、真実は藪の中というのもあるだろう。色々暗喩は示されるし、観ている側には「これが真相かな?」と思わせるように作っているのだが、あくまで真実は語られない。唯一全てを知る三隅は何も喋らないまま死刑にされる。

 そのもどかしさが面白さに転換してる。

 重盛が三隅の行動を探る事で、謎の奥へ奥へとは言っていく内に生の実感とはなにか?という領域に踏み込む事になる。それが身に迫るから面白さがある。

 最終的には真実なんてどうでも良くなる。観てる人一人一人が真実と思ってるなら、それで良いじゃないか。なんて風にさえ思えてくるし、それがちゃんと作風になってる。

 真実は分からなくてもいい。それでも作品はちゃんと出来る。それを示しただけでも充分。

 そして本作にはもう一つの魅力がある。

 三隅の言動を負った重盛は、そこで三隅の家族を知る。殺人犯の三隅は家族の一生をめちゃくちゃにしたのは事実で、だからこそ全員三隅を恨んでいる。家族は当然崩壊状態である。

 ところが何故か三隅はとても真摯な言動で家族について語る。死を前にしていながら、しかも家族からあれだけ恨まれるような事をしているのに、家族に対してあんなに優しいのか。

 それは結局三隅が家族を作ろうとしていたということが重要になるのだ。彼が殺した山中の娘で広瀬すず演じる山中咲江は彼にとって新しい家族であり、彼女を守るためにはどんなことでもしようとしていたということが分かってくる。

 自らの身をなげうってでも彼女をかばおうとする理由は、劇中いくつもの暗喩が示されているが、それについて一切語ろうとせず、全て自分が背負い込む事で、自分の責任として死のうとしてる。

 そこで本作は実はこれまでの是枝監督作品と同様、やはり家族を描こうとしていた作品であったと言う事が分かるのだ。 

(評価:★4)

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