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[コメント] リズと青い鳥(2018/日)

内容的には短編一編分くらいの物語を力業で一時間半の映画にしてしまった。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 短い原作を一本分の映画にするにはいくつかの方法がある。最も多く採られるのは、いくつものミニエピソードを加えてかさ増しをする方法だろう。

 しかし本作はそんな手を取らなかった。物語はシンプルなまま、ド直球に演出のみで徹底的に見せてみせたのだ。最も難しい方法を敢えて使った姿勢には素直に感心する。画面で絵を見せることよりも、ほとんど台詞と間合いだけで演出してしまった。

 台詞の一つ一つが凄く、囁き声どころか息づかいさえ演出の一部に取り入れてしまう。本作の主眼が主人公の心の変化を見せることなので、それが可能になったのだが、よくここまでやったもんだ。

 出てくるキャラ一人一人も声に特徴がある人を選んでるようで、絵柄の雰囲気に合わせて、きつい声だったり、ほんわかした声だったり、自信なさげなおどおどした声だったりと、その辺の巧さも光る。

 微妙な声で演出される本作だが、それに合わせるように物語も心理的な微妙さを描くものだった。

 中学校や高校あたりで、人が「好き」という感情を持つのは、異性よりもむしろ同性に対するものが多い。この場合の「好き」は性的なものではなく、「一緒にいて心地良い」からという部分で、これは一生同じ感情を持つことになる。

 だけどそれが時として、「心地よい」が「依存」となり、やがて本当の意味で「好き」という感情に化けることもある。

 その辺の感情はとても微妙なところ。先に挙げたように、「心地良い」「依存」「性的に好き」が微妙に絡まり、強く「愛する」とまでいかない心境のまま思春期は過ぎていくことになる。

 その微妙な感情はどこかで踏ん切りを付けねばならなくなる。「親友」となるのか「恋人」になるのか、「無関心」になるのか、それとも「敵」になるのか。

 どこかで踏ん切りを付けることで、これからの付き合い方が変わることになるが、出来る事ならその踏ん切りを付けたくないという感情も生じる。

 こんな微妙な心理描写をしながら、主人公鎧塚みぞれの「踏ん切り」を描くのが本作と言える。

 そこで重要になるのがタイトルともなった童話「リズと青い鳥」である。

 みぞれは自身をリズになぞらえ、リズが青い鳥を逃がす光景を追体験して、自分には希美を突き放すことが出来ないと思い込む。しかしどこかでその時が来るということを意識もしていた。

 ところが先生から、実は自分自身がリズではなく、青い鳥の方であると指摘を受け、気づいてしまうのだ。自分がしなければならないのは、希美を見捨てることではなく、自分が飛び立つことなのだと。

 それが出来た時、当の希美自身も本当はそれを望んでいたことを知る事になる。正確に言えば、希美の方は、「今のままではいけない」とみぞれよりも切実に思っていて、何かの踏ん切りを付ける必要性を感じていた。

 みぞれが一歩踏み出してくれたお陰で、希美の方も自分の実力を知り、みぞれと一緒にはいられないと言うことを納得させられた。

 だから一見起伏の無い物語に見えながら、もの凄いドラマが込められている。

 複雑に絡み合う依存を一度断ち切ることで、新たな人間関係が構築されて終わる。まだまだ話はこれからも続くが、高校生活の一エピソードとしてはこれで充分。

(評価:★4)

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