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[コメント] さらば冬のかもめ(1973/米)

ニコルソンの懐の深さ。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 本作も当時流行っていたニューシネマの系譜に連なる作品。そもそもニューシネマは既存の映画演出から逸脱したところに価値観があるため、一口に「ニューシネマ」と言っても、その内容は様々。人間の表現出来ない感情を表そうとするものもあり、それまで“悪”とされていた側を主人公とし、淡々とその行為を映していくものもあり、どこか世の倣いからはずれたところに価値観を観ようとするなら、どこか似通った所があっても、出来は随分変わる。

 それらをひっくるめてちゃんと役作りが出来た役者が一人存在する。それがニコルソン。この人はどこかアウトロー的なものを持っている役が兎角合うのだが、それら一つ一つにきっちり役作りが出来ている。

 本作の場合、これまでの反体制に立つ存在が、軍隊という体制側として登場している。だが有能な人物であったとしても、やはり軍隊に染まりきらない逸脱した人物として描かれている。彼は軍人として立派な人物ではない。最低限自分のすべき事をこなすだけで、後は俗悪で卑劣な人間。極端な悪でもなければ善でもない。言ってしまえば「人間的すぎる」人物として描かれる。しかしそれが又実に味わい深い役作りになってる。ちょっと欲望に忠実なだけの普通の人間がちょっとした旅をするだけ。それだけの物語なのだが、これを面白くさせているのがニコルソンの個性だったんだろう。「ファイブ・イージー・ピーセズ」同様、これもニコルソンを観る作品だった。

 ところでもう一つ。映画のジャンルとしてのロードムービーは人生の縮図として捉えられることが多く、多くの場合“絆”を描くこととなる。旅が始まった時と終わった時。ほんの僅かその人物は人に対して優しくなれる。その定式を本作では見事に打ち破っていた。旅はやっぱり旅に過ぎない。そこで何かトラブルがあったとしても、それはちょっとしたイベントが起こっただけ。ハリウッド作品の表現が大きく変わってきたことを感じさせる作品でもあり。

 勿論ニコルソンだけでなく、同じ不良将校役のオーティス=ヤングも、神経質な新兵役のランディ=クエイドも不思議な味わいがあり。男臭い作品だけど、力を抜きたい時に観るに丁度良い作品だね。

(評価:★4)

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