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[コメント] ハリエット(2019/米)

テーマは良かったんだが、観たかったものが観られなかった。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 「黒人モーセ」の異名を持つハリエット・タブマン。この人の名前を知ったのは本作の予告を観てからで、この映画の紹介文で、今度新しくなるお札に印刷されるとか聞いて、一体どんな人物かと思ってネットで調べてみたら、色々興味深いことが分かった。実は既に観ていた映画の中にもいたことが分かったりもする。意外にもあの斧映画『リンカーン 秘密の書』(2012)に登場していたとは。

 こんな面白い経歴を持った人がこれまで一度も映画になってなかったことにも逆に驚いたが、これまで作られることは無かったのは、恐らくいろんな障害があったんだろう。  という事で、結構楽しみにしていたのだが、新型コロナウイルスのお陰でだいぶ遅れてしまって、ようやく鑑賞できた。

 ただ、作品の出来としてどうかと言うと、悪くはない。というレベルの話だった。

 テーマは良かったんだが、出来がいろんな意味で中途半端な感じだ。

 本作は実際の歴史とハリエットの内面世界のすりあわせによって構成されるのだが、それがあんまり上手くいってない。具体的には、逃亡の困難さとか元主人であるギデオンとの複雑な関係に尺をとすぎていて、それが物語の進行を阻害してる。そもそもギデオンに対してハリエットはどのような感情を持っていたのかのかが明確で無いため、最後まですっきりしない。憎しみなのか、それとも歪んだ愛情なのか、そこら辺をすっきりさせた上で途中であっさり決着着けさせるべきだった。それを長引かせてしまったため、作品がウェットになってしまって落ち着かない。

 初めての映画化なんだから、むしろ冷静に歴史の中でハリエットが何をしたかに注目すべきだっただろう。

 例えば1850年に制定された逃亡奴隷法というのがあるのだが、これはハリエットや地下鉄道の人々にとっては死活問題だったはずだし、言葉ではそれも語られるのだが、ハリエットがやってることが変わってないため、それで何かが変わったように見えない。

 それにハリエットがやったのは、奴隷の逃亡を助けただけでなく、その後の南北戦争での活躍と黒人の権利活動家となって政治との関わりも持つようになるのだが、それがラストシーンでほんのちょっとしか触れられてない。

 これだけ長い尺取っておきながら、本来映画として描くべきところが全然描けていなかったところで、かなりフラストレーションがたまった。私が観たかったのはこれではない。

 これだけ魅力的な人物を描いた割には本作が賞と関わってなかったというのは、そのバランスの悪さのせいだろう

(評価:★3)

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