[コメント] 赤い靴(1948/英)
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パウエルとプレスバーガーの名コンビ監督が送るバレエ大作で、イギリス映画界の総力を結集したと言われている。バレエ舞台のバックステージ作品となっているが、実際の見所は恋愛模様よりも実際に劇中で演じられるバレエシーンの方で、実際に本作の大ヒットにより、世界にバレエブームが到来。日本でも本作を契機にバレエは大人気になったという。
パウエル監督作品はこれまで何作か観ていて大変相性が良いことが分かっているので、その代表作と言われる本作は長らく私の“観たいリスト”の上位に合った作品だった。ところがなかなか観る機会に恵まれず、たまたまCD屋に行った時にえらい安く売っていたので購入した。
なるほど。これは凄いわ。バレエにかける思いとかなんとかよりも、構成の巧さ。劇中で演じられるバレエシーンはことごとく物語そのものを暗示させるものとなっており、特に表題である『赤い靴』の悲劇はそのままこの物語の方向性を暗示し、最後は赤い靴を履いたまま、まるで踊り続けて死んでいく少女のようにシアラー演じるヴィキは身を投げていく。
そのためにこそ、バレエシーンはしっかりと撮られなければならなかった。僅か15分程度とはいえ、ちゃんと始まりから終わりまで『赤い靴』の踊りがしっかりと映されていたし、その際の圧倒的な雰囲気をしっかりカメラに映し撮る事に成功している。 これは物語をコントロールする監督の力量もそうだけど、撮影のジャック=カーディフの名人芸のなせる技で(なんでもカーディフはそれまでバレエを観たこともなかったのだが、本作で開眼。熱狂的なバレエ好きとなって撮影に臨んだそうだ…調べてみたらカーディフは監督もやってる。何故それが『悪魔の植物人間』(1973)なのかは謎だが)、カメラは舞台を縦横無尽に走り、ダンサー達の最も魅力的なシーンを余す所なく映し撮る。それは時として表情であったり、躍動する足首であったり、まるで本当に劇の中で恋をしてるかのような男女の絡み合った踊りであったり。そして最後の踊り子の死のシーンは固定カメラで、しっとりと撮影される。これは本当に見事だ。テクニカラーのどぎつい色が逆に踊り子の白と靴の赤の色彩のコントラストをいやが上にも映えさせ、これだけで充分すぎるほどの出来といえる。
ただ一方では肝心の物語本体がそのまんまベタな作りになってしまったため、それがちょっと残念。メロドラマが好きじゃない私としては、かえって本編のだらだらした作りはどうにもだれてしまった。
それでもラストの展開は意外。まさかこう来るか?と、それまでだらけながら観ていたのが、突然のショックを受けた感じになった。確かにこれは『赤い靴』だ。自分の意志で赤い靴を履いてしまった女性の悲劇とはここにあったのだな。
ちなみにここに登場する冷血漢ボリスは実在のロシア・バレエ団のディアギレフがモデルとなっているとか。芸術を作り出すバレエを支える人物とは、逆にこういった冷血な人間でないと出来ないのかも知れないな。
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